62.故障以外の原因

 Nさんは地方に出張し、営業所で借りた車で、一人で顧客の会社を目指していた。土地勘がないのでカーナビが頼りだった。
 しかし思ったより早く到着した目的地で、変だと思った。
 そこは田んぼや林しかなく、遠くに数軒の人家が見えるだけの、閑散とした道だった。
 自分が設定を間違えたのかと、もう一度目的地を入れ直すと、全く別の場所が示された。
 気を取り直して進み、しばらくしてある住宅街の片隅で、カーナビが目的地だと告げた。周りを探しても会社などがあるように見えない。
 機械の故障かもしれないが、もう一度入力してみると、また別の場所を示した。
 今度は無事に顧客のビルまで辿り着けた。
 仕事が終わって営業所に戻り、停めた車の横を通り抜ける時、後部座席のドアと窓に、ベッタリと目立つ手形が付いているのを見つけた。
 最初は確かに綺麗だったし、借りた営業車なので、拭いてから返そうとした。だがドアのは拭き取れたのに、窓のはゴシゴシ擦っても取れない。
 そこでNさんは気付いた。
 窓の手形は内側に付いていたのだ。

2023-12-31

61.糸

※生成AI画像を加工したものです。

 Nさんはある日、髪をとかしていて、ブラシに引っ掛かりを感じた。
 真後ろのうなじ部分なので、自分では見えない。鏡でもよく分からないので、そろそろ行こうかと予定していた美容院で、髪切りついでに見てもらおうと出掛けた。
 美容師は、特に絡んでいる部分もないと言って、普通にカットを済ませた。ところが翌日にまたブラシが絡み、友達からは一本だけ長い毛が出ていると指摘された。切り忘れだろうと思い、クレームをつけに立ち寄った。
 同じ美容師に丹念に確認してもらうと、手鏡を渡され椅子の向きを逆にして、「見ずらいかも知れませんけど、これ分かりますか?」と聞かれた。
 手鏡に映る背後の鏡の中の自分の肩に、一本だけ数センチ飛び出ている毛がある。
「これ髪の毛じゃありません。何か糸のようなものです」
 驚いていると美容師は「そっと引っ張ってみても良いですか」と言う。
 痛かったらすぐやめてと答え、やってみてもらうと、それは5センチほど伸びた。
 美容師は急に手を止めて「棘か何か刺さってます」と覗き込み、抜いて欲しいと頼んだので、毛抜きを取りに行った。
 抜かれても全く痛くはなかったが、何故そんなところにと考えていると、「あっ!」と小さな悲鳴が上がった。
 それは棘ではなく、1センチくらいの、とても短く細い縫い針で、黒い糸が付いていた。二人とも、理解できない事態に、しばらく黙り込んだ。
 気味が悪いので、その場で消毒してもらった後、病院でも診てもらい、出てきた針は実家のそばの神社に持ち込んで、始末してもらった。
 Nさんには、誰がいつ、何の為に、どうやって針を刺したのか、全く思い当たることが無いのだった。

2023-08-04

番外編・AI怪談

※GoogleのチャットAI bird君に質問してみました。

問い・スマートフォンやPCについての怪談を知っていますか?

はい、スマートフォンゃPCについての怪談をいくつか紹介します。

●ある日、若い女性が新しいスマートフォンを買いました。彼女はとても興奮していて、すぐに使い始めました。しかし、彼女はすぐに奇妙なことに気づきました。スマートフォンは、彼女が知らない番号からたくさんの電話やテキストメッセージを受け取っていました。彼女は番号に電話をかけたりテキストメッセージを送信したりしましたが、誰も答えませんでした。彼女はまた、スマートフォンに奇妙な写真やビデオが保存されているのを見つけました。彼女はこれらの写真を撮ったことはありませんでした。

 女性は怖くなり始め、スマートフォンを使いたくないと思いました。しかし、彼女は仕事や友達と連絡を取るためにそれを使わなければなりませんでした。彼女はスマートフォンを使い続けましたが、奇妙なことが起こるたびに怖くなっていきました。

 ある日、女性はスマートフォンでビデオを見ていると、自分の顔を見ました。しかし、それは彼女の顔ではありませんでした。それは死んだ人の顔でした。女性は叫んでスマートフォンを落としました。彼女はスマートフォンを見たくなかった。

 彼女はスマートフォンを箱に入れて押し入れにしまい、二度と使いませんでした。

●ある男が夜遅くに家に帰ると、コンピューターがオンになっているのを見つけました。彼はそれをオンにした覚えがありませんでした。彼はコンピュータに近づき、画面を見ました。画面には奇妙なメッセージが表示されていました。メッセージには、「私はあなたを見ています」と書かれていました。

 男は怖くなり、コンピュータをシャットダウンしました。彼はコンピュータの電源を入れたくありませんでした。

 翌日、男はコンピュータの電源を入れました。画面には、彼の写真が表示されていました。写真には彼が眠っている姿が写っていました。男はさらに怖くなり、コンピュータを廃棄することにしました。

これらは、スマートフォンやPCについての怪談のほんの一部です。スマートフォンやPCを使うときは、注意が必要です。知らない番号からの電話やテキストメッセージには注意して下さい。また、知らない写真やビデオが保存されている場合は、削除して下さい。

※原文のまま

2023-06-10

番外編・神様の通り道

<藤並香衣さんの投稿>

 僕が子どもの頃に住んでいた家は、大工だった曾祖父が自分で土地を買って建てた家でした。家相とかも気にしないで建てられた家だったようです。

 ある時、どういう経緯でやってきたかは不明ですが、祈祷師から「この裏庭に出る通路は『神様の通り道』だから、通るときには神様に「通らせてください」と声をかけて通りなさい。」と言われたと言います。

 家の脇を抜けて鬼門のある小さな裏庭に行くときは、家族は皆「神様通らせてくださいね」と声をかけてから通っていました。

 子ども心に「神様もこんなところを通ることがあるんだ」と思っていました。

 小学生になって友達になった女の子の家に遊びに行った時に、その子のお母さんが足を引き摺って歩いていました。

「お母さん、怪我してるの?」とその子に聞くと

「うちのお母さんは神様の通り道を横切って神様の邪魔をしたんだって。」不思議そうな顔をしている僕にその子は続けた。

「いろんなお医者さんに診てもらったけど、どうしても治らないの。神社の巫女さんから、神様に投げ飛ばされてした怪我だから、一生治りませんよって言われているの。」

 本当に、まるで誰かに投げ飛ばされたように宙を舞って転んだのだそうです。

 僕の頭には「神様の通り道」の話が浮かびました。本当に神様が通る道があって、邪魔をしてはいけないのだと。

 家を建て替えた今でもその場所は少し開けてあり、家族は皆「神様通らせて下さいね」と言いながら通っています。

2023-05-17

60.外を見てはいけない日

 Mさんの実家は代々庄屋で、近代になっても親族が村長などを務め、祭りなども取り仕切って来た。

 この村には神様が通る日というのがある。神官や村長など限られた役職の数人だけが、村外れの丘に登り、お迎えの儀式を行う。他の者は雨戸を閉ざして家にこもり、外に出てはならない決まりだった。神様は姿を見られるのを嫌うのだ。Mさんも子供の時分から、掟を守るよう固く言いつけられていた。M家の者は村人の見本にならなければいけないと、厳しく躾けられて逆らってはならなかった。

 高校生の頃、祖父が儀式の為に家を出る際、念を押すようにわざわざMさんに「外を見るなよ」と言った。信用されていないようで、ムッとした。祖父はいつも、Mさんにだけ特にうるさかった。

 この日は祖母や母など女衆は、宴席の用意で忙しく、父や兄は儀式の手伝いで神社に行く。いつも一緒だった下の兄も、この年から手伝いに参加していた。

 一人で暇だったMさんに、外を見てやろうかという考えが浮かんだ。丘の神域や神社以外には誰も出ていないのだから、家の者にさえ気付かれなければ、前の道を通るという神様が見られるかもしれない。ラジオをつけっぱなしにして居るように装い、自室の窓からそっと庭に出た。庭に面した裏木戸を少しだけ開けて、道の様子を覗うと、やはり誰も居ない。電柱と塀の間に隠れて神様が来るのを待った。

 神様は割とすぐにやって来た。道のずっと先から、赤い着物を着て赤い面を被った誰かが歩いて来る。

 なんだ人間じゃないかとガッカリした時、突然バケツの水をぶっかけられた。いつの間にか後ろから来ていた別の者がいて、やはり赤い面を着けていた。頭からモロに浴びせられて驚き慌てたMさんは、急いで家に引っ込んだ。

 自室に戻って服を見たら、真っ赤に染まっていた。洗面所に駆け込み鏡を見ると、顔も真っ赤だった。

それから一週間ほど、顔や手の赤い色は取れなかった。もちろん家族にバレたし、祖父にきつく怒られた。一族の恥だとまで言われ、元に戻るまで家から出してもらえなかった。

 この行事は元々、村の掟に従わない者を、炙り出す目的で始まったのだと聞かされた。

 Mさんはこの村を出る決心をした。

2021-03-14