番外編・堂々巡り

SUZUさんの体験・1 子供の頃、田舎に帰る時に起こった話

これは小学生時代の話。
7歳離れた弟を父方の祖母に顔見せするために、下関に行った時のこと。
新幹線に食堂車がまだあった時代、私はこの食堂車で過ごすのを楽しみにしていたのですが、
父の思い付きで飛行機で宇部空港に向かって、レンタカーで下関入りすることになりました。
 
思えば、この『思い付き』自体がおかしかった気がします。
 
小心者の自由人、気持ちだけ九州男児という性格の父。豪快で強気な母。
この両親が、下関という遠い場所に行くための話をしていて、長い時間新幹線の中で過ごすのは疲れるからと、
途中で車を借りて行くことを決めていました。
 
その時、宇部空港から下関に行くには、「山越え」をするという言葉が出ていたのです。
 
「地元だったから大丈夫だ!」
 
そう豪語する父の言葉に根拠はありません。むしろ、今の交通事情を知らず昔の記憶だけでは心配しかない。
3人兄弟の末っ子気質がでているのか、決めたことは曲げません。
 
***
 
当日、宇部空港まで飛行機で向かい、レンタカーを借りていそいそと乗り込む父。
山口県の道路はとても幅広く綺麗に舗装されていて、行き届いた道路整備事情を父は自慢げに話していました。
 
その当時、山陽自動車道と近くに190号線が走り、海沿いに行けば早く着くような状況でしたが、
父はその道を選ばず、遠巻きに走っている490号線を選びました。
それは、山の中を突っ切っていくような感じで下関に伸びているような道でした。
 
ほぼ、分かりやすい国道。途中、厚狭という場所に電車の山陽本線があるので、高を括っていたのでしょう。
国道沿いに走らせていた車がいつの間にか山道になり、山々に囲まれた林道のような場所になっていました。
流石の母も心配そうに父に何か言っていますが、煩いの一言で聞いてもらえません。
 
子供の目から見ても、同じ場所をぐるぐる回っています。
 
同じ場所を3回ほど通った時、
「なぜ、お父さんは同じ方を選ぶの?」と聞いてみました。
父曰く、道に迷った時は同じ方向に行けば出られるのだと。これでは埒が明きません。
迷い込んだ先でグルグル右回りをしている状態だったからです。
 
「車ごと崖に落ちた時も、こんな感じだったね、お母さん。」
 
車を急停車させた父が固まっています。
こんな時に何を言っているんだと、母は顔を引き攣らせましたが、怖がりの父はパニック状態。
 
さっきから嫌な感じがしてならない私は、次の分かれ道を左に行ってと頼みました。
私には先ほどから、右の山の上の方が仄かな薄暗い明かりがついているように見えていたのです。
母にスピードを出そうとする父をなだめさせ、右にハンドルを切ろうとする父の耳元で、左だよと囁く私。
とてもシュールな車内状況でした。
 
ようやく違う景色になったのですが、民家は薄暗く気味の悪い感じがしていました。
景色が少し変わって民家が見えただけで、父も母もホッとしています。
 
「まだだよ。お母さん、あの時も林道から出た瞬間に、落ちたよね。」
 
洒落にならない事を言うんじゃないと横目で見る母に対し、父は静かに「どっちに行けば良いんだ?」と
真顔で聞いてきます。
 
右に下がっていく道と、でこぼこした真っすぐな道があります。父は右の道を指さしましたが、私はでこぼこ道を選びました。
でこぼこ道を進むと道は平らにはなりましたが、日も暮れて薄暗い状態でした。
 
「お父さん、ゆっくりで良いから真っすぐ前見て運転してね。」
 
右の窓から外を見た私は、父に前だけを見て運転するように言った。
程なくして、狭いながらも舗装道路に戻ってこれた私たちは、無事に下関の祖母の下に行くことが出来ました。
 
***
 
祖母から「そりゃ、お前たち呼ばれてたね。」言われて青ざめる父。
母は、何故、車の事故の事をあんな時に言ったのかと聞いて来ました。
 
実は車の事故は、母と私、母の祖父母が一緒に車ごと崖から落ちて木1本に引っかかり、ダム放水15分前で助かったもの。
そこに父は乗り合わせていなかったのです。
その話を聞いた知り合いや占いをしていた叔母などが、父がいたら死人が出ていたと言ったために、今回あんなに怯えていました。
 
私は母の顔をジッと見つめて・・・
 
「お父さんは右に行きたがっていたけど、左にいってからの道には、右に道は無かったんだよ。」
 
私の言葉に、その場にいた全員が凍り付きました。
 
実は、真っすぐゆっくり進めと言った場所も、右下はタイヤギリギリの崖だったのです。
私には父と母に何が見えていたのか、不思議な体験でした。

2024-01-04

番外編・堂々巡り」への4件のフィードバック

    1. あぁなるほど😮そういう現象なんですね😨
      みんなでパニクって冷静な人がいなかったら助からないですね😱

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      1. わたしも10年ほど前
        近所の山でマウンテンバイク午後に1人で出かけて
        (その時点で愚かな行動)
        道に迷って、まだ日没までまがあるのに、
        谷間はすでに暗くなってしまっていて
        今夜はここで野宿かもと半パニックになりかけたことがあります。
        幸い🚵いつものパスになんとか辿り着いて日没直前にトレイルヘッドに帰ることができましたが、めっっちゃ怖かった😿🙀です。。。

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        1. beach houseさんも怖い体験してるんですね😰
          知っている場所だからといって山や海をなめてはいけませんね😱
          戻れて本当に良かったです〜😅

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