67.誰も知らない女

 Oさんの父は60代で病に倒れ数年の闘病の後亡くなった。
 当時実家に居たOさんは、母の代わりに見舞客の応対や、父の会社関係の人間に連絡する役目を引き受けていたので、父の交友関係はかなり把握しているつもりだった。
 だから通夜の晩にその女を見かけた時、全く覚えがないのを不思議に思った。
 中年のその女は、黙って焼香だけして、すぐに居なくなった。うっすらと微笑みを浮かべているような表情が、Oさんは気になった。近所の人なのか、親戚の誰かの妻なのか、確かめようと何人かに聞いてみても、皆知らないと言う。記帳もしていないし、香典もなかったので、調べようがなかった。何か違和感が残った。
 後日親族だけで父の骨壷を墓の下に納め、手を合わせてから顔を上げると、墓石の向こうにあの女が居た。満面の笑みを浮かべて立っていた。
 隣にいた妹が思わず「ひっ!?」と声を上げると、女は墓石の後ろに移動して、見えなくなった。すぐに追いかけて周りを確かめたが、消えていた。
 親族が集まる度に、あれは何者なのかの話になった。結局誰にも分からなかったのだ。

2024-02-03

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