SUZUさんの体験・4 合宿で起こった話
これは短大の同好会合宿の話。
同好会自体は、自然を体感しながら体術(護身術や気功)を学ぶという内容だったので、
顧問の日本画の先生が何を描きたいかで、合宿場所は決まっていました。
今回は富士山をモチーフにするので資料にする写真撮影も兼ねて、合宿場所を山中湖にある宿にした時の事です。
山中湖の宿泊先の部屋割りは、顧問の部屋とドライバーの先輩の部屋、大きめな部屋に3人と
3部屋取ったのですが、翌朝の私の状態を見て全員が騒然となりました。
***
同好会の合宿で初めに決めるのは、寝る場所の位置でした。
それが決まらないと荷物を置く位置もなかなか決まりません。
皆が一斉に主張しているのをまとめつつ、気を使ってくれた仲間が奥の壁際を薦めてくれました。
奥と言っても、部屋奥が一段高い床の間と書院造りになっていて、直ぐ壁ではなかったので、素直にその場所に移動しました。
富士山周辺は見どころが多く、8月の緑の豊富な樹海や風穴や氷穴などの体感できる自然を満喫しました。
夕方には体術の練習をするなどスケジュールが過密していましたが、
こなせてしまうだけの素晴らしい雄大な景色と大自然にテンションが上がっていたからかもしれません。
あれこれと忙しい1日を過ごし、私たちはお風呂に入った後、ぐっすりと眠りにつきました。
***
寝苦しさで目を覚ました私は、寝ぼけ眼で部屋の入口の方へ視線をやりました。
真っ暗にするのを嫌がった仲間が、玄関口の足元の電気をつけているようで、
薄暗く室内に明かりが届いていました。
別段喉が渇いているわけでも、トイレに行きたいわけでもなかったので、私は壁の方に寝返りをうって寝る事にしたのです。
それから数十分か1時間かして、眠りかけていた私の耳には、部屋を歩く友達の足音が聞こえました。
誰かが起きたのかな?
そんな程度だったのですが、足音は私たちの布団の周りを練り歩くような感じで、一向に布団に戻る気配はありません。
そのうち、後ろの友達が息苦しそうに呻いています。
心配になった私は、静かに布団の中で寝返りをして、布団の隙間から友達の方を見ました。
薄暗い明かりに、2人の寝姿が見えます。
2人とも寝ている?
足音がしたにもかかわらず、友達は静かな寝息を立てて寝ています。
うなされている様な感じは微塵もなく、布団をはいでいるような感じです。
あまり考えてはいけないと、頭のどこかで警告音が鳴っているようで、寝る事に集中しようと、
布団をかぶったまま寝ました。
それから数時間経ち、私は強烈な首の痛みと息が出来ない苦しさに悲鳴と共に飛び起きたのです。
「どうしたの?!」
一番玄関に近い位置で寝ていた友達が飛び起きました。駆け寄って咳き込む私の背中を撫でてくれます。
息ができなくてもがいたのだと告げると、「隣の友達の手が乗っていたのでは?」と、隣に声を掛けますが、
私に背を向けて丸くなって寝ている彼女の腕が当たるはずもありません。
「おかしいよね・・・」
それ以上は口にできませんでした。
次の日が山歩きなので、体力温存のために私たちは、寝なくてはならないからです。
5時の起床まで2時間。
私は、彼女に布団に戻るように言って、自分も寝なおしました。
首の違和感とまだ感じる苦しさは、現実のもののような痛みを伴っていました。
嫌な考えを振り払って、神様仏様と良いものへ意識を切り替えながら寝入りました。
「・・・ちゃん、大丈夫?起きて・・・」
揺さぶり起こされ、私は薄っすらと目を開けました。
視界に友達二人が覗き込んで、涙目になっています。
「だい・・・じょ・・?」
声を出そうとして、喉に違和感を覚え、パジャマを開けると、友達が悲鳴をあげました。
私の喉元を見て青ざめています。
洗面所に行こうとした私に、友達が自分の手鏡を渡してくれました。
そこには、まるで首を絞めたように紫色に変色した筋が写っていたのです。
あまりにも怖がる私たちに、顧問は宿屋の人に部屋替えを申し出てくれました。
素っ気なく答えた従業員に、私の首の痣を見せると、慌てて宿屋のオーナーを呼んできてくれました。
オーナーは部屋を変えるか別宿を手配すると言ってくれたのですが、何かを察した顧問が短大の別荘に話を付けてそちらに
移ることになりました。
あのまま連泊していたらどうなっていたか。
後日聞いた話では、あの部屋はあまり使われない部屋だったようです。
それにしても、あの私たちの周りを歩く足音は何だったのか、強烈な首の痛みと苦しさは何だったのか?
しっかりと残った首の痕は、1日経って消えてくれました。
2024-01-22
