座標:ZZX-00-A20 (東環第六区・第七計画区境界線)
草原上空。北端にソーラーパネル林立。南面に金属パネル製連続壁面。終端確認できず。数百メートルに渡る開閉式ゲートあり。異常域、壁面外拡大。ゲート前走行車両。変形大破。中に人間一名。降下。
「だれか⋯いますか⋯?」
「私はTRACE-02です」
「頼みを、聞いて、くれませんか?」
「助けを呼びますか?」
「僕はもう、助からない。だから、伝えてほしい⋯」
「あなたのトレースを許可しますか?」
「と⋯?」
「⋯彼女に、伝えて、くれるなら⋯」
話者意識喪失。計測開始。急激に情報量低下。最大出力回収を実行。
座標:ZZX-00-A25 (ZZX開発機構東棟)
観測チーム管制室。中央にモニター。
モニター表示・第七計画区 異常域拡大
/ 推定境界線 東進 14.2 m/min
/時間偏差 +0.018 ms
/測距不整合 3.7 m
/重力偏差 上昇中
観測員多数。各センサー装置を確認中。
警告音声『境界線越境! 境界線越境!』
「膨張速度が予測値を超えてる!」「確認。南東端。ゲートの前だ!!」「20番ゲートか?!」「至急警備室に連絡! 出入りする車がないか確かめろ!」「補給車は1時間前に帰ったはず」「中央情報部の暗号解析官は? そろそろ着くはずじゃ⋯」
「僕ならここに来ています」研究員たち全員こちらを注視。
「暗号解析官?」「待って。表示遅延が出てる」「もう収縮したのか?」
「あなた無事なの? どうやってここに入ったの?」「ゲートがひとつ消滅しました。そこを通りました」「怪我してない? 診療室に行って検査してもらって」「僕は平気です」「だけど⋯」
指導者らしき人物指示「警備員さん! IDを確認してから診療室に連れていって。あと館内と部屋を案内して」「皆はデータと現地確認急いで!」
警備員IDを確認。「荷物は車ですか?」「車ごと全部時空歪みに取り込まれました」「車ごと取り込まれたのに、よく逃げ出せましたね」警備員前方から歩行を促す。追随。
「怪我はないので必要物資の補給をしたいです」「ここにも歯ブラシや石鹸ならあるけど、洋服類は街まで行かないと」「街まで行きます。街にはどうやって行きますか?」
警備員顔を覗き込む。「怪我してるようには見えないが、もし頭を打ったとか⋯」「僕は平気です。街に行きます」「⋯とりあえずこちらに」警備員前方を歩行。追随。
座標:ZZX-00-B20 (ZZX開発機構東棟横・裏門)
機構裏門前停止車両。TAXIの表示灯あり。車体ドアの前に立つ男性。
「乗っていきますか?」「どこへいけば良いですか?」「何をしたいの?」「話を聞きたいです」
「だったら区役所かな。配給拠点だから一応政府職員もいるしね」「配給とは?」「中の生活は全部配給制ですよ。もう支給されたものしかないんです。ただ、種類は少ないけど、食料でも燃料でも、好きなだけ取れるからね。働く必要もないから、みんな暇なんです。毎日安全確認と、寝場所の確保と、一日中誰かと喋ってるか、趣味でもやるしかない。私もやることないから、今でもタクシーやってるんですよ。だからタダです。運賃いらないです。金もらっても使うとこないですしね」「車両の速度での通行は危険ではないですか?」「危険だよ。変だと思った時には突っ込んでるからね」「危険なのに走行するのですか」「どうせこの街に、安全なんかないんですよ。私もあの時、間一髪だったしね」「何があったのですか?」
「勤務明けで、事務所に戻ろうと、高速を走ってました。前にも一台タクシーがいてね。その車が、いきなり何かにぶつかったように、弾かれたんですよ。蛇行して、中央分離帯に衝突したのを見ました」「私はギリギリでかわして路肩に止めて、振り返ると、今走ってきた道がないんですよ。高架道路がぷっつりと切れて、その先はまだ建設もされてなかったみたいに、下の旧道だけが続いてました。あの運転手は死んだでしょうねぇ。数秒違ってたら私も死んでました」
「何度もいろんな学者さんが来ましたよ。何度も同じ話しました。何か解ったんですかねぇ。私たちには何も教えてくれないんですよねえ」
運転手一旦停車。道路脇の男に道を尋ねる。「ここらへんはよく道が消えてしまいましてね。確かめてから進まないとどこに出るか分からない」再び発進。ヘアピンカーブに侵入。南東方向に戻る走行。カーブ出口は北西方向なのを確認。しばらく蛇行道路を通過。壁面にペンキで区役所と書かれた建造物に到着。
座標: ZZX-00-C24 (区役所)
建造物内部。吹き抜け3層構造。仕切り壁で細分化。物資・人間多数。入り口付近にいた男性こちらを見る。
「ご用件は?」「話を聞きます。配給衣服の支給も求めます」「この人機構の新人さんですよ」追随してきたとみられる運転手発話。
「だったらまずあちらで住人台帳に記帳してください」「機構の人も記録してるのかい」「機構の人は区役所には来ませんからね。でも来た人間には一応全員記帳しといてもらいます」「だって今いる人全員把握するの無理でしょ? 」「本庁から台帳作る役人が来て常駐してるんですよ。左遷されたのかなんなのか、とにかく意味ない仕事でもやってるんだからさ、名前書くぐらい協力しなさいよ」奥に促されて進行。
住民登録と書かれた仕切り壁。長机の後ろの男性、紙を差し出す。
「ここに名前と生年月日を記入して。住所はいらないから」「名前とは僕の正式型番ですか?生年月日とは僕の製造年?稼働初日?どの座標の年号で記入しますか?」「あなた外国人?言葉通じないの?まあいいや。とにかく名前はここ、年齢はこっちね。適当に書いて」
筆記具を渡される。記入提出。
「話を聞ける人はいますか?」「上の奥に相談窓口って書いてあるから。そこ行って」指示された上階に進行。
相談窓口と壁に書かれた一角。椅子が並ぶ。
下から大声「ALC–TRACEってなんだよー!!」「この数字列はなんなんだよ!」
「どんなご相談ですか?」「特定帯域通信座標について見解を聞きたいです」「通信機なら向こうが専門ですね」
隣ブース。通信機の前の男性。「外とは繋がらないよ。機構が通信妨害してるからさ。自治区内なら大体通るよ。遅延はかなりあるけどね」「通信傍受記録はありますか?」「こっちで調べなくても機構で傍受してるだろ?」「見せてください」
通信機雑音の中に声のような帯域混入。分析未解明。
「今日の防災無線時間なので、私はこれで」通信機の男性、奥の装置に向かう。
『本日、旧市街南西部で異常域の拡大が確認されています。みなと商店街は通行しないでください』館内と外部スピーカーから音声。
物資を仕分けした箱が並ぶブース。仕分け作業中の女性2名。
「配給衣服の支給を求めます」「男性用は左列だから、自分で選んで好きなだけ持ってって」
女性たち会話。「機構の人なのに服ないのかしら」「自治区の様子探りに来たんじゃないの」
箱列内容物から、体格測定値適合衣服を選別。女性たち駆け寄る。「そんなに持ってくの? いいんだけどさ」「袋あるからこれに入れて。ほら後ろ落ちてるし」落下衣類回収。7袋を保持して脱出。
外に停車タクシー。運転手「あなた帰る手段がないと思いましてね。待ってたんですよ」
座標:ZZX-00-C24 → B20 (タクシー車内)
運転手発話。「すごい荷物ですね。機構で服が大量に消える現象でもあったんですか?」「そのような現象があるのですか?」「私は知りませんよ。お客さん面白い人だな」
運転席中央の装置を操作。ノイズ音。「その音はなんですか?」「ただのラジオですけど」
「今日は自治区の放送も聞こえないな。外の局は入らないけど、たまに笛の音みたいなのや声みたいなのも入るんで、しばらく聞いてたりします」
音声分析。異常帯域を観測。運転手電気接続解除。
「この道は来た時と違う道ですね」「同じですよ」「座標が違います」「ZZXの道路はうねりますから」「うねるとはどんな意味ですか?」「こう波打ったり、横にずれたり戻ったり、起伏ができたり陥没したりするんです。動きがすごくゆっくりだから、あまり感じませんかね。まるで生き物ですよ」
磁気嵐強弱通過地点全工程で観測。開発機構東棟裏門到着。
座標:ZZX-00-A25 (ZZX開発機構東棟)
建物内会議室。着席21名。それぞれ発話。
「この人が例の?」「今朝資料作成したのも君だよね?」「あなた大丈夫なの? 昨日勝手に自治区に出かけて、帰ってからは部屋にこもって食事もとってないそうね。それにその服⋯」「服が問題ですか?」「いえ。服の趣味はどうでもいいわ。座って」
「信号傍受履歴に解析班データに考古学班資料、各ポイント設置機器一覧と稼働状況と他に⋯とにかくこれらのデータ全部夜のうちにダウンロードしたのはあなたよね?」「そうです」「パスワードも教えてないのにどうやって各班の内部データ閲覧したの?」「さすが中央情報局!」「しかも暗号解析の専門家だよ。パスワードぐらいちょろいだろ」「笑ってる場合?!」
「調査が必要です。ここで取れる情報はすべて回収したので、街の内部を観測に出かけます」「待ちなさい! 勝手に外に出ては駄目よ。私の許可と検査が必要なの」「なんの検査ですか」「放射能・電磁気レベル・付着物・身体検査一通りよ」「必要ありません。放射能・電磁気・外気温・衝撃・腐食摩耗、高レベル耐性です」「はあ?」「暗号解析するのに、フィールドワーク必要なんすか?」「私も自治区側の潜入捜査は必要だと思う。彼ら特有の合図とか調べないとこの暗号は⋯」「暗号ではありませんでした」「え?」
「今朝解析結果入ってましたよ。信号Aパターン定時観測の方は古代言語。パターンB時間不定期一定期間は未知言語。パターンCランダムは言語もしくは音楽の減衰信号という分析ですね」「その分析見せて。古代言語の根拠は?」「未知言語ってなんだ」各調査員各自のPCや別モニターを閲覧。各自移動発話退席。
「調査に行きます」「あなた何者なの?」「IDは⋯」「調べたわよ。あなたの上司に確認もしたし、ゲートの監視カメラで、磁気嵐の前にあなたを乗せた車が走ってくるところも確認できた。だけど⋯」「調査の許可をください」「⋯⋯」
主任女性手で追い払う仕草? 退席。
座標:ZZX-00-B20 → E28 (乗用車車内)
裏門で呼び止める女性。開発機構と書かれたカメラを、屋根に固定した車に、乗るよう促す。
「自治区に出るならまず知っておいて欲しいことがあるの」「どんな情報ですか?」「病院船よ。私の母もそこで眠っているの」
「研究調査部門の人たちは、全員事故後に外から来たじゃない。街の惨状や生き残った人には興味ないみたいに、現象だけ調査してる。私それが許せないの。私たちの生活を見て欲しい」
「あなたが昨日区役所まで来たって聞いて、この人なら現状を見てくれるかもしれないと思って⋯」「案内してください。しかし車両での走行は危険でしょう」
「異変は突然に起こるんじゃない。少し前から陽炎が立つように空間が揺らいで見えるから、慣れれば避けられるんです。住人はずっとここで暮らしてきて、ある程度カンが働くようになってます」
女性窓の外を指し示す。「もともと開発機構はあそこにあったんですよ。母もそこで働いてた。この街の半分は、すでに明るい未来都市とやらに開発されていて、旧市街では多くの住民が立ち退きにあってました。最後まで残ってた人たちがあの事件にあって、ほとんどの人が病院船送りか、消えてしまいました」「病院船とはなんですか?」「眠り続けている人たちが収容されているんです。あれは夜に起きましたから、その時すでに眠りについてた人たちは、目覚めなくなったんです」
「あの船は元々建設資材を運ぶ運搬船ですよ。ZZXの中の人や物は外に出せないし、半壊した病院の代わりに広いスペースがあったあの船が使われたんです。海の方が異変が少ないですしね」「異常域は海洋部分の方が広いのではないですか?」「そうかもしれないけど、海底で何か動いていても、船の中はあまり影響ないんです。船も鉄板で覆われてるからじゃないですか? 機構の人たちもあの金属壁で守られてるんでしょ?」「磁気異常に対してだけなら効果があります」
車両岸壁脇に停車。岸壁の先長い突堤。先端に巨大船停泊。
女性に追随。船舶に向かう。
「まずここの現実を見てください。私たちはあなたたちの研究対象じゃない。まだ生きて生活してるんです。病院船を見て、旧市街を見て、できれば瓦礫街にいる連中も見て行ってください。あの日親を亡くしたストリートチルドレンもいるし、これが私たちの日常なんですよ!」
座標:ZZX-00-E28 (病院船)
<ベッド番号0029>
患者横に腰掛ける中年女性。通路を振り向く。
「驚きましたか」「目を開けている患者は娘以外にもいますよ」
「目は開いていて意識はないのですか?」「そうです。呼びかけても聞こえないのです」
「目を開けて何かを見ています。こちら側ではないと思います。向こうを見ているんです」「向こうとは?」「多分夫でしょう」「夫が向こうにいるのですか?」
話者沈黙。こちらを凝視。
「今まで誰にも話さなかったのです。言ったところでどうしようもないし、誰からも聞かれなかったし⋯」しばらく沈黙。
「あの晩私が職場から戻ったのは、予定よりだいぶ早かったんです」「家の玄関を開けたところで、あれが始まったんです」「最初は地震かと思い、急いで娘の安全を確認しに向かいました」「娘の部屋のドアを開けると⋯」
「⋯夫はいつからあんな⋯全然気がつきませんでした」
「娘を夫から引き剥がして抱え、動揺している夫を突き飛ばしました。渦のような、穴のような、暗い影の中に」
「そのまま娘を抱えて外に逃げて、娘の意識がないと気がついたのは後になってからです」「私が常用していた睡眠薬を飲まされていました」「全部私のせいなんです」「私が交通事故を起こして半年も入院してたから⋯息子にも大怪我させてしまって⋯」
「あの時に目覚めていた人の多くが助かっています。でも夜遅くだったので眠っていた人たちは、意識だけ引き込まれたようです。場所ごと持っていかれた人もいます」「うちも跡形もなく消えました」
「私はこの子を守れなかった」「この子を取り戻す為ならなんでもします」「教えてください。取り戻す方法を」「あなた中央情報局の人でしょう?」「何か知っているんでしょう?」
話者こちらに詰め寄り激しく揺さぶる。通路横から来た青年静止を試みる。「母さんやめろよ」「母さんは何も悪くない」「本当は僕も知ってたんだ」「ごめんよ。ごめんよ」
二人抱き合って泣く。その場から退避。
<ベッド番号0153>
患者横に腰掛ける女性。通路を振り向く。
「彼も目を開けたままですか?」「そうです。ずっと目は開いてます。でも抜け殻ですよ」
「今度来た調査員?」「そうです」「誰が何を調べても、今だに何も解ってないんでしょ? それとも軍事機密とやらで喋れないのかしら?」「軍事機密とはなんですか?」女性哄笑。
「私はね。もうどうでもいいのよ。原因なんてね。どうせ解ったところで変わらないもの」「ただここから出たいのよ。なんで私たち閉じ込められてるのよ」「ZZX区域における未知状況が人体に及ぼす影響と外部環境に波及する可能性ついて未確定要素⋯」「私たちが死のうが消えようがもうどうでもいいじゃない」
「好きなようにさせてよ!」女性立ち上がる。
「私この男と別れるところだったの」「あと一日遅ければ、この街を出てたはずなの」
「こいつ、ラブホテルのベッドで見つかったのよ」「建物半分なくなってたから、一緒にいた誰かさんは消えたんでしょうね」「見つかった時すでにこの状態で、大量の睡眠薬飲んでたんだって」「なんなのよこいつ」
「自由になりたいのよ。他の街に行って、何もかも忘れて、人生やり直したいのよ⋯」
「出て行かせてよ。こいつと別れさせてよ。お願いだから。ねえ!」
女性こちらに歩み寄る。退避。
<ベッド番号0210~213 >
長椅子に座る男女。脇の棚にラジオ。流れる音楽。男性発話。「何か御用ですか?」「調査しています」「機構の人ですか?」「そうです」二人顔を見合わせる。
「この音は?」「自治区のFMです。電波状況の良い時に音楽を流してくれるんです。子供達に良いと思って」「あなたの子供ですか?」「一人は私たちの子です。他の三人は親が消えてしまって、子供だけ残されたんです。親も眠ってるお子さんは同じ病室の隣のベッドです。この子達だけなのは可哀想だなと思って、うちの子と同じ部屋に」女性発話「元々三人とも同じ保育園で親御さんたちとも知り合いでしたから」
「音楽が子供に良いと言うのは?」「意識がなくても耳は聞こえてるんでしょう?」「判断できません」「でも少しでも聞こえる可能性はあるんでしょう?」「可能性はあります」
「最初は毎日呼びかけて、何か反応があるんじゃないかと期待しました」「呼びかけてもなんの反応もないまま、医者も変化ないと言って⋯」「何年も経つと、だんだん話すこともなくなります。でも何か聞かせてやりたいんです。もう私たちにできることはこれだけですから」
「ここは静かです。延命装置の音と、時々看護師が来る足音と、船が軋む音だけ。あまりにも静かです」
「嵐の日だけ、ガラスに叩きつける雨の音と、たまに獣の叫び声みたいなのが⋯」「獣の叫びとは?」
「海の底から聞こえるんですよ。信じませんか?」「私も確かに聞いたんですよ」「調査します」
退室・デッキに移動。海中に微弱電波探知。海面下構造を探査記録。
座標:ZZX-00-E24 (堤防)
海岸線。堤防に腰掛ける老人。こちらを見ている。海に細かい振動のうねりあり。
「あんた何だ?」「暗号解析官です」
「人間か?」「疑問がありますか?」
「上手く言えねえけど、なんか気味悪いんだよ。どこ見てんのか分かんねぇっていうか」「あなたを見ています」
「一応会話できるようだし、幽霊とは違うんだな」
「幽霊とはなんですか?」「前に出たんだよ。あんたみたいな奴がさ」「僕に似ていましたか?」「顔じゃなくて雰囲気だよ。何をしていたとしか言わない奴」「それはどこへ行きましたか?」「どっかに消えたよ。時空歪みに飲まれたんだろ。ここじゃ珍しくもねえし。何が起こっても、もう誰も驚きゃしねえよ」
堤防裏。瓦礫の向こうにいた人物こちらに発話。「機構の奴と喋っちゃ駄目だよ」
「ほっとけ。俺の勝手だ。機構だの自治区だの、どっちもどっちだろ」老人立ち上がって街方面に去る。
座標:ZZX-00-D23 (旧市街商店街)
両側商店が続く道路。進行に先行しシャッターやドアが次々閉鎖。中に人影。こちらを凝視。近づくと建物奥に逃走。路上は無人化。
座標:ZZX-00-D19 (旧市街住宅地)
住宅街十字路交差点。北西一角のみ構造物欠損。欠損構造物の一部と見られる階段に座る男性。耳にスマートフォンを当てている。発話。
「こっちはなんとかやってる」「子供達はまた背が伸びたってさ」「君の方はどうだい? 」「ずっと待ってるよ」男性、こちらに気がついて顔を上げる。
「あぁ。変だと思うでしょう? 通じないのに。でももしかしたらと思う時があるんですよ」男性に接近。「それは何故ですか?」
「雑音の中に微かにピッという信号音が聞こえる時があるんです。ほら録音しての後に合図で鳴るやつ。あんな音です。だから喋ってみるんです。もしかしたら向こうで、妻が聞くかもしれないと思って」
「妻はどうしたのですか?」
「あの日、たまたま私の両親と子供達は、泊まりがけで猫島町に遊びに行ってたんですよ。ミュージカルを観るのを楽しみにしててね。妻は遠慮したのか私の世話があるし残ると言って⋯私も久しぶりに妻と水入らずで過ごせるから強く勧めなかった。行かせていれば無事だったのに」
「せめて早く家に帰れたら妻と離れ離れにならずに済んだ。だけどあの夜に限って仕事でトラブルがあったんです」
「異変が起きたのは帰宅途中で、やっと戻った時はもう遅かったんです。妻と家のほとんどが無くなっていました」
「両親と子供達は、事故後別の街に暮らしています。戻るのを許されなかったんです。ここは危険ですしね。やりとりは手紙でしかできません。電話も何も繋がらないんです。でも元気にしていれば良いんです。会えなくてもね」
「みんな妻はもう死んでるって言うんですよ。諦めろって。消えた人たちは全員死んだんだって。でも私はそんなふうに思えない。どこかでまだ妻が生きてるような気がするんです。今もずっとです」
「誰も聞いてなくても良いんです。とにかく毎日言っておきたいんです。今も帰るのを待ってると。それだけなんです」
男性、黙ってスマートフォンを見つめている。スマートフォンの信号微弱。わずかに電磁異常域を観測。その場を離脱。
座標:ZZX-00-D15 (旧市街北端)
住宅地終端。道幅拡大。建造物痕跡数棟。周囲に生い茂る植物。崩壊文字列に続き、宇宙物理研究所と書かれた半壊石造オブジェに、腰掛ける青年。
「住民をつつき回るのはやめろよ」「住民に触っていません」
「誰を追ってるんだよ」「人間を追跡していません。時空歪みと不明通信の調査をしています」
「ここで研究してたやつか⋯」「ここに研究施設があったのですか?」「みんなあれは突然起こったと思ってるけどさ。もともとここで偉い先生が実験やってたんだとよ。世界的権威かなんか知らんけど、実験の失敗がこの結果だろうが」
「根拠はありますか?」「研究してた現象が偶然起こったって言うのかよ」「開発機構のデータでは発生日より10年前から微弱な空間歪み現象が見られ調査のために研究施設を⋯」「機構の言うことなんか誰が信じるかよ!」青年足早に退去。
座標揺らぎ発生。微弱。観測不安定。
座標:ZZX-00-E14 (自治区管轄外瓦礫地域)
半壊した建造物の壁内子供5人確認。瓦礫の隙間からこちらを凝視。歩行に追随して子供たち壁内を移動。そちらに歩行転換。子供たち逃走。
コンクリート造長方形台座状建造物の上に少女。簡易屋根柱に駅の表示。少女細い棒状装置を咥え息を吹き込み音発生。
「それは何ですか?」「笛よ。おじさん笛知らないの?」「知りません。いつも笛を発信していたのはあなたですか?」「私だけじゃない。向こうからも聞こえるもん」「どこからですか」「移動してるけど、この辺ではよく聞こえるよ」「発生箇所の特定ができますか?」「おじさんも向こうに行きたいの?」「おじさんもとはどういう意味ですか?」
「ともだちがさ。行っちゃったんだよね」「毎日お父さんに殴られるのやだって、いっしょに隠れてたりしたけどさ。すぐ見つかっちゃうんだよね。だから向こうに行っちゃって」
「向こうから笛の音聞こえるじゃん? だったらこっちで吹く笛も向こうに聞こえるのかなって、もしかしたら聞いてるかもって⋯」「おじさんどう思う?」「聞こえる可能性があります」
少女再び笛を操作し始める。磁気嵐発生。探査移動開始。
座標:ZZX-00-E13 (自治区管轄外瓦礫地域)
瓦解した建物群。磁気嵐移動。追跡。探査座標不安定。
男性5人。それぞれ別方向から接近。それぞれ棒状金属所持。
「機構のやつか。何しに来た」「調査しています」
「だったらよそでやれ」「この近辺の調査が必要です。北北東105m地点を通過しましたか?」「知らねえよ」
「空間の揺らぎを見ましたか?」「俺たちを調べてんじゃないのか」「あなたたちについて調べていません」
「いいからさっさと立ち去れ!」棒状金属振り上げる。威嚇行動の可能性。
背後から車両接近。男性5人逃走。
「危なかったですね」「危なかったのですか?」開発機構と書かれたカメラを、屋根に固定した車の女性、同乗を促す。
「本当に瓦礫街まで見に行くとは思わなかった」「なぜですか?」
「警備部から注意されてないの? ここは犯罪者の巣窟よ。ZZXが封鎖された後で逃げ込んできた奴らが居るの。治外法権で、政府にも手は出せない場所ですから」「街は封鎖されていないのですか?」
「地上は壁で囲まれてます。異常域の海側はほとんど浅瀬で、深い部分もところどころ岩礁があって、船は近づけません。唯一通れる海路は病院船が塞いでます」「では彼らはどこから?」「空から降りてくるんです」「上空も500m付近まで磁気嵐と霧で覆われています」「そうなの? でもパラシュートなら降りられるんじゃないですかね」
ZZX開発機構東棟裏門で下車。
座標:ZZX-00-A25 (ZZX開発機構東棟)
建物内会議室。着席18名。それぞれ発話。
「ああ、やっと来たのね。新しい通信が傍受されてたのよ。あなたが分類したパターンBね。ずっと沈黙してたのに、2日前からまた頻繁に入り始めた」「知っています」「それを追って旧市街にいたの?」「先に昨夜入れてくれたデータについて聞きたいんですけど?」
「この参考古代文字列はどこから?」「海底探査で発見した石柱もしくは壁の一部と推測できる物体に刻まれていました」「海底?」「分析の結果パターンA冒頭の毎回共通部分は**アルクレージア**と仮定できます」「アルクレージア!! 先生の専門の古代国家群だ!」「その研究資料を見せてください」
「無理ですよ。彼女は博物館ごと消えました。ZZX建設に伴って掘り出された大量の遺物と共にね」
「先生が居てくれたら、もっと解読できたのになぁ」「この文字列と照合してみましょう。語形から推測できる部分があるか調べるの」
「外部にメール送信可能なPCはありますか?」「ゲート脇の談話室のを使って。パターンBについての見解は?」「見解は言いません。最新の電磁場センサーデータをください」「はいはい。こっちだから勝手に見てってね」「電磁パターン変化からマグネフォアの活動域を予測可能です」「マグネフォア?」「僕は行きます」「どこに行くのよ」「彼は好きにさせれば? 成果さえ出せば文句言わせないってタイプなのさ」
退出。数値誤差推定遅延値計算。タスク完了予定後時間猶予なし。
移動。
座標:ZZX-00-B20 (ZZX開発機構東棟横・裏門)
裏門前停止車両ロック解除。乗車発進。
走行 。マグネフォア活動域へ接近 。
座標:ZZX-00-C18 (機構と旧市街中間道路)
交差点。中央にスペクトル変動。磁気嵐観測。
交差点と重複トンネル様空間。目視不安定。
境界域不安定。侵入を試みる。
送信。
<ALC:TRACE-02> :: <ALC:COSMOS-03>
@OBS[AQUARIA/ZZX]
VOID-01 > LOST :: MAGNEPHORA[FOUND]{REL:+}
SIGNAL > CONTAINS :: ALCREZIA{CONF:+}
TRACE-02 > STATE :: PURSUIT[BEGIN]
COSMOS-03 > SUPPORT :: NULL
AQUARIA > SURVEY.ADD :: NULL
COSMOS-03 > ROUTE :: CONTINUE[PRIOR]
:: VAEL.EN ::
砂嵐接近。視認困難。
Qwfvshqsqqsetf⋯
Vwstsqqfovu⋯
⋯音が⋯
エピローグ
ネットワーク座標:AQ-YUI-7C21
僕は助からない。
君に謝りたかった。でも直接会うのはもう無理だ。
だからこの人に伝言を頼んだ。
僕が間違ってたよ。
君の言う通り、キャリアなんかにこだわらないで、君のそばにいれば良かった。
ここで成果を上げれば、将来はもっと明るいと、本気で信じていたんだよ。二人の為になると思ったから来たんだ。馬鹿だった。
君と一緒にいられたら、ずっと一緒にいられたら、ただそれだけで良かったのに。
何故判らなかったんだろう。
すべてはもう遅い。
ひとつだけ願いが叶うなら、もう一度君を見たかった。
せめて最後に君の幸せを祈る。
どうか幸せになってほしい。いつも幸せでいてほしい。
心から祈るよ。
君の笑顔はとても素敵だった。
(ALC-TRACE-02完)
