
古い商店街に面したその店では、客が入ってきたのを見て人数分の水を運ぶと、余ることがよくある。カウンターから死角になっている奥のスペースには、混んできても誰も座ろうとしない。「奥へどうぞ」と声をかけても、そちらに行きかけた客が戻ってきてしまう。確認すると誰もいないが、カウンターで下を向いて洗い物をしていると、出口に向かって影が通り過ぎた気がする。そのあとはまた奥の席にも人が座り始めるのだそうだ。
2019-03-25

古い商店街に面したその店では、客が入ってきたのを見て人数分の水を運ぶと、余ることがよくある。カウンターから死角になっている奥のスペースには、混んできても誰も座ろうとしない。「奥へどうぞ」と声をかけても、そちらに行きかけた客が戻ってきてしまう。確認すると誰もいないが、カウンターで下を向いて洗い物をしていると、出口に向かって影が通り過ぎた気がする。そのあとはまた奥の席にも人が座り始めるのだそうだ。
2019-03-25

マンションの駐車場の一番奥まった場所が、Sさんのバイク置き場だった。仕事のシフトが深夜になり、まだ暗い早朝に帰宅してバイクを止めていると、奇妙な光景に気がついた。
マンションと隣のビルとの間は、人が横向きにならないと入れないくらい狭い。その僅かな隙間の奥に女が立っていた。横顔だし暗くて表情はよく分からない。何をしているのか気になったが、疲れていたしそのまま部屋に戻った。だが次の日の帰りに、また同じ女がいるのを見てゾッとした。

その日の昼過ぎ買い物に出ようとすると、駐車場が封鎖されて警察が来ていた。あの隙間で、ビルから落下したらしい女の遺体が発見されていた。
しかしSさんが見た女は、確かにしっかり立っていたのだ。
2018-08-04 02:200

昔近所に知人が居た。安く借りられたと喜んでいた部屋は、細い道路を挟んで目の前に隣の建物が建っていた。採光が良くなかったけれど、帰りが遅いので気にしなかった。ある朝ジャケットのボタンが取れ、慌てて付けて出て行った彼女は、帰ってからカーテンの開けっ放しに気付いた。閉めようとして隣のビルを見ると、部屋の中に緑色のソファーに横たわる男が居て、顔だけこちらに向けていた。急いで閉めたのだが、ソファーに見覚えがある気がした。

ある晩タバコを吸う友人が訪ねて来た後、換気の為開けていた窓を閉じようとして、またあの男を見た。同じ格好で彼女を凝視していた。ギョッとしたその時、不意に隣のビルに明かりが点き、そこがオフィスだったと分かった。何かを取りに来たらしい人が、すぐに明かりを消すと、隣の窓に自分の部屋が映り込んだ。自分の後ろにソファーがあり、男が寝ていた。彼女はすぐに部屋を逃げ出し、引っ越すまで決して一人では戻らなかった。

あのソファーは部屋の内覧に来た時見たものだった。業者の人が「前の住人が突然出て行ってしまって、家具がそのままなんですけど、今週中には片付けますから」と言っていたのも思い出した。
彼女はもうこの街には住みたくないそうだ。
2017-04-13 18:32

その夜 Zさん達のグループは、軽い肝試しのつもりで、山の中腹のホテルだった建物に出かけた。廃業して数年が経っていたものの、当時は怪奇現象の噂があったわけではない。

玄関ホールから中に入ると、窓際以外は暗くて何も見えなかった。各自懐中電灯を持ち、思い思いに部屋を覗きながら、廊下を進んでいた。Zさんは1階の奥の部屋で、影が動いたのを見た気がしたが、壁や床を丁寧に照らしても何も見つからない。おかしいと思っていると、不意に懐中電灯が切れて真っ暗になった。全員先に行ってしまったようだ。

「おーい」と呼んでも返事がない。「どこやー?」と叫びながら手探りで進むうちに、方向も分からなくなった。心細くなった時、冷たいものにいきなり手首を掴まれ、飛び上がるほど驚いた。
「こっちだよ」と落ち着いた小さな声が聞こえ、再び冷たい手が触れた。その手はZさんを引いて進み、「誰?」と聞いても「こっち」と答えるだけだった。Zさんにはふと疑問が湧いた。何故こいつは暗闇で歩けるのだろう。そう思った途端ゾッとして、思わず「お前は誰なんや!」と怒鳴った。相手は強く手を引っぱり、「こっちにおいでよ」と言ったのだ。

仲間達が悲鳴を聞いて戻って来ると、Zさんは腰を抜かしてへたり込んでいた。両脇を抱えられてなんとか車まで戻った。最初は笑っていた連中も、Zさんのただならぬ様子に、ちゃんと話を聞いてくれた。「危なかったな」と言われて初めて、自分のすぐ横に、地下に降りる階段があったと知った。

このホテルはその後心霊スポットとして有名になった。今はホテルへの進入路が金網で封鎖されており、建物も朽ち果てているらしい。
2019-03-25