Log No. 0001 シジャポプトー
座標:SJP-01-A
古い港町、黒い雲に覆われた空。海際に立つコンクリート製の廃墟。2階のバルコニーに4人の子供。
『何をしていた?』
「沖を見てたんだよ」「嵐が来るんだよ」「ロコリア人の壺だよ」「中のヤツが出てくるよ」
『それは何?』
「怪物だよ」「怪獣だよ」「巨人だよ」「きっと世界の終わりだよ」
子供達の視線の先。岩礁。海上に見える部分で15メートルほどの高さの壺。座礁している。ボルトとワイヤーで固定された蓋がずれている。中は暗く視認不可。
座標:SJP-01-B
埠頭の岸壁の側。小さなカフェ。窓際のカウンターに並んで座る初老の男2人。
『何をしていた?』
「コーヒーを飲んでるだけさ」「だいたいいつもここに居るのさ」
『それはなぜ?』
「俺たちにはもうやることなんてないのさ」「ここでコーヒーを飲んで、こいつと喋って,海を見て過ごすだけさ」
男たちの視線の先。岩礁。座礁している壺。
『あれは何?』
「ロコリア人の壺だってさ」「昔からよくあの岩礁に流れ着いてくるんだ」「嵐が過ぎればいつの間にか消えてるのさ」
『それは何?』
「知らねえよ」「ロコリア人のものだからロコリア人に聞けよ」「俺たちに解るわけねえ」
風が強くなる時間帯あり。際立った異常値は観測されない。
座標:SJP-02-A
平地を埋め尽くすビル群と集合住宅。ネオンとライトで赤く染まる夜空。ガラスの高層ビルの上層階に6人の男女。
『何をしていた?』
「会議中です」「朝までにもう1本編集しないと」「なんかいいアイデアないですか」「週に3本以上はアップしないとだめだ」「すぐにネタが尽きるわけよ」「最近派手なのいけてないよね」「私のは取材終わってるし」「レシピの応募が減っててさ」「中の人が辞めたいって言うのよ」「夜食なんか取る?」
近距離で爆発音。煙と炎の上昇を確認。全員いっせいに窓の外を見る。
「こういう時に限ってカメラ置いてきてる」「こっからじゃわかんない」
それぞれ別の部屋やエレベーターに向かって素早く移動。誰もいなくなる。ガラス越しに見える他のブースの人間は、ヘッドフォンをして作業に没頭。問いかけに応答なし。異常値は観測されない。
座標:SJP-02-B
古いアパートの狭い部屋。ソファーに横になりスマートフォンを操作する女。
『何をしていた?』
「推しの動画見てるの」
『それは何?』
「邪魔しないでよ」「この時間だけが楽しみなんだからさ」「嫌な客の相手ばっかで疲れてんのよ」「放っといて」
パトカーと救急車のサイレン。怒号。この座標の平均指数に照らし合わせ、際立った異常値は観測されない。
座標:SJP-03
巨大駅隣接展示場。テープで仕切られた床。区画ごとに積み上げられた膨大な数の段ボール。誰もいない。照明のみ稼働。異常値は観測されない。
座標:SJP-04
住宅街の並木道。同じ形状の樹木と家が視認範囲限界まで連続。立ち止まっている男。
『何をしていた?』
「家に戻りたいんです」「戻れないんですよ」「こんなことになるなら、出かけなかったのに。妻のそばにいたのに」「予感はあったのに、なぜ大丈夫だと思ったんだろう」「なぜいつもの毎日が続くと思っていたんだろう」「せめてあの角さえ曲がれたら、僕たちの家が見えるんですよ」「見送りに出てくれた妻が、まだ居るかもしれないんですよ」「二度と会えなくなるなら僕は⋯僕はなぜ⋯」
男の示した角を通過。行き止まりの道。突き当たりの家屋。窓に人影を確認。異常値は観測されない。
座標:SJP-05
田園地帯。幹線道路沿い。孤立した建築物。古いモーテル。外観内装共過剰な色と装飾。5階の部屋。大きなベッドに裸で横たわる男と女。
『何をしていた?』
「こんなところで何をするっていうのよ」「こいつは寝ちゃってるわ」
「皮肉よね」「恋をしたらこの人とずっと一緒にいたい。今この瞬間に時が止まればいいと思うでしょ」「永遠の愛を誓って、永遠にふたりで生きると約束する」「嘘じゃない。本気でこの人と結ばれたいと願ったのよ」
「それがどうよ」「ほんとに離れられなくなったらどうよ」「これ、なんかのいやがらせなの?」「あたしの愛を試してるの?」「ここから出してよ」「ここからあたしを出してってば!」
大きなベッドに裸で横たわる男と女。
女、覚醒。発話なし。
素早い動きで衣類を装着。バッグを取得。退出。
外部でエンジン音を確認。時間差あり。
大きなベッドに裸で横たわる男と女。
女、覚醒。
「ここから出してよ」
同様の動作を反復。衣類装着。バッグ取得。退出。
外部でエンジン音を確認。直前と一致。
時間経過値と修復座標に、際立った異常値は観測されない。
座標:SJP-06
海辺の小さな無人駅。周辺に民家なし。豪華寝台列車が通過。ホームに佇む女。
『何をしていた?』
「降りたの」「衝動的に列車から降りたの」「全てを投げ捨てたくなったの」
女、辺りを見回す。
「何もないのね」「何ひとつない場所だわ」「空っぽの私に相応しいかもしれない」「さっきまで欲しいものはなんでも手に入ったのにね」「全てが揃ってる場所にいたのにね」「なんでも手に入ったけどなんにもなかった…」
女、ホームから海方向を向く。洋上から獣の咆哮のような声を確認。静止。際立った異常値は観測されない。