27.増えてゆく

 Uさんが家を建てた時、向かいの屋敷はすでに空き家だった。庭木は鬱蒼と茂っていたが、たまに手入れに訪れる男性もいて、特に問題は感じなかった。むしろその丸い塔のある小さな洋館は、おしゃれで敷地も広く、羨ましいくらいだった。

 最初に変だと気付いたのは、Uさんや家族ではなく姪のM子だ。その年大学に落ちたM子は、翌年東京の大学を受け直す為、Uさんの家に下宿して予備校に通い始めた。小さい頃から何度も遊びに来ていたし、それまでは大丈夫だった。

 しかしM子が来て何日も経たない夜に、屋敷に誰かいると言い出した。2階の自分の部屋から、向かいの窓辺に人影が見えるという。Uさんが見に行っても何も分からなかったが、それから度々同じようなことを言った。灯りもついていない洋館の窓に、黒い人影が立つのだという。M子は次第に怖がるようになり、自分の部屋ではなく茶の間で寝るようになった。「だって増えてるのよ。どんどん増えてるの」「今では全部の窓に人が立ってるのよ」M子の様子は明らかにおかしくなっていた。もともと感受性の鋭い子だったので、受験の失敗や環境の変化で、まいっているのだと思った。そしてついに「外に出て来た」と言い始めた。Uさん達には向かいの庭は真っ暗でよく見えないのに、M子は木々の間に黒い人が立っていると訴える。それが増え続けて「庭いっぱいにぎっしり人が立っている!」と叫んだ後、自分の実家に帰って行った。

 Uさんはその後一度だけ、向かいの屋敷に来ていた男に、声をかける機会があった。「この家に住むか売るかしないんですか? もったいないじゃありませんか」 彼は静かに微笑んで「ここは売れないんです」と答えた。「何故ですか」と聞いても「事情がありましてね」と言うだけだった。

2019-07-04 19:45

26.雨の夜は

 若い頃バイト先で知り合った人に、アパートに招かれた。彼女は隣家の緑が気に入って、部屋を決めた。窓からは鬱蒼と茂る樹木の奥に、丸い塔のある小さな洋館が見えていた。そしてこの部屋に住み始めて間もない頃の、ある話を聞かせてくれた。

 その雨の日。彼女は真夜中にトイレに起きて戻って来た。電気を消して布団に入ってすぐ、誰かが横を通った。まさかと思って見回しても暗くて何も見えない。また誰かが通った気配がして耳を澄ますと、ザーザーという雨音の中にひたひたと小さな足音が混じっている。息を潜めて固まっているうちに、暗闇に目が慣れてきた。
 窓の方から静かに黒い影がやって来る。自分の横を通って玄関の方へ消えて行く。次々にひたひたとやって来ては通り過ぎて行った。おそらく何十人もいた。そしてどのくらい経ったのか分からないが、今度は玄関の方から戻って来たのだ。
 全てが終わるまで、動くことも眠ることもできなかった。

 このアパートの大家は40代くらいの穏やかな雰囲気の男性で、端の部屋に住んでいた。田舎から出て来たばかりで知り合いもいなかった彼女は、大家に昨夜の出来事を訴えた。彼は話を聞いて「雨の夜は繋がるからね」と呟き、不思議な文様のお札をくれた。指示された通り部屋の中央に清酒を注いだコップを置き、窓と玄関を塩で清めてから、天井にお札を貼った。冷んやりしていた空気が和らぐ感覚があった。
 以来何も起こらないそうだ。

2019-06-27 18:40

23.交差点

 S区の住宅街から幹線道路に出るありふれた交差点。雨の日の深夜にひとりで通ってはいけない。3人の幽霊を見る事になる。角のビルの屋上から飛び降りた男。下を歩いていて巻き添えになった女。そして二人の幽霊に驚いて飛び出し、車に轢かれた少年。彼らは次の犠牲者を待っているのだ。

2018-12-31 20:19 

22.隣の家族

 単身赴任したHさん。会社が用意していたのは家族向けの家だったので、一戸建てが並ぶ閑静な住宅街に一人で住んでいた。隣に引越しの挨拶に行った時は留守で、すぐに仕事が忙しくなり毎晩帰りも遅いので、そのままになってしまった。
 毎朝出勤の身支度を整えている頃に、隣の子供達が元気に出て行く声がする。たまに外食しないで早く帰ると、賑やかに会話しながら食事をしている様子がうかがえた。こちら側の窓に灯りは見えないが、テレビの音まで聞こえていたし、一度も会ったことはなくても、仲の良さそうな家族だと思っていた。
 一年後、本社に戻るので荷造りの手伝いに来てくれた同僚から、信じられない話を聞いた。隣の家で数年前に父親が家族を皆殺しにする事件があり、以来ずっと空き家なのだという。

2018-12-31 20:19 

19.トンネル

 都内のタクシー運転手さんには有名な、幽霊トンネルがある。走行中に突然天井から人が降ってくるので、できれば通りたくなかったそうだ。慌てて急ブレーキを踏んで後続車に追突される事故も起きたし、探しても落ちたはずの人間は見当たらない。
 そのトンネルの上の丘が、整備されて公園になった。造成中に古い人骨がゴロゴロ出て来た。骨を集めて別の場所で供養すると、人が降ってくることはなくなった。

2018-12-31 20:19