34.河童

 Wさんが若い頃大雨で浸水被害の出た年があった。その日村の男達は全員駆り出され、Wさんも先輩と組んで警戒に当たっていた。
 厚い雨雲のせいで昼なのに暗い道を、二人で川沿いの神社を目指して歩いていると、鳥居の前に緑のレインウェアの人が5人立っているのが見えた。皆小柄で痩せていた。隣村の連中が来ているのかと思ったが、50メートルほどの距離に近づいた時、不意に先輩が立ち止まり「ありゃ人間ではねぇな」と言ったのだ。
 視界も霞むほどの雨の中よく見ると、レインウェアを着ていると思ったのは、彼らが緑色だったからだ。頭の先からつま先まで全部が暗い緑だった。すぐに向こうもこちらに気付き、一人が「キェーーッ」と叫ぶと、次々に濁流の川に飛び込んで消えた。
 村には古くから河童の目撃談があり、鳥居の脇には河童を祀った祠もあった。この日の豪雨でその祠も流され、その後河童を見た人はいない。

2019-07-12

28.雨男

  ある小学校の児童の間で噂が広がった時期がある。雨の日になると校門前に現れる男の、顔を見たら死ぬのだという。
  その男は黒い大きな傘を目深にさしていて、首から上は隠れている。雨が降るといつの間にか現れ、長い時間ただ黙って立っていた。校門を出る時はみんな、男の方を見ないように、走って通り過ぎていた。
  ところがある日児童の一人が、ちょうど男の目の前で転んだ。その子は立ち上がる時、ちらっと顔を見てしまった。「うわわぁ!」と叫んで走り出し、先の交差点で車にはねられた。以前にも事故の起こった場所だった。

  救急車が到着するまで側にいた友達は、その子が話すのを聞いていた。「泣いてたんだよ。ボロボロ泣いてた」「死ぬぞって言ってた」 救急車に乗るまでは会話もできたのに、病院で容体が急変した。この事件以降、雨男は見かけなくなった。

 ずっと後になって、あれは最初の事故で子供を亡くし、自殺したお父さんだったのではないかと言われるようになった。
  今はこの小学校も統廃合で無くなっている。

2019-05-11

26.雨の夜は

 若い頃バイト先で知り合った人に、アパートに招かれた。彼女は隣家の緑が気に入って、部屋を決めた。窓からは鬱蒼と茂る樹木の奥に、丸い塔のある小さな洋館が見えていた。そしてこの部屋に住み始めて間もない頃の、ある話を聞かせてくれた。

 その雨の日。彼女は真夜中にトイレに起きて戻って来た。電気を消して布団に入ってすぐ、誰かが横を通った。まさかと思って見回しても暗くて何も見えない。また誰かが通った気配がして耳を澄ますと、ザーザーという雨音の中にひたひたと小さな足音が混じっている。息を潜めて固まっているうちに、暗闇に目が慣れてきた。
 窓の方から静かに黒い影がやって来る。自分の横を通って玄関の方へ消えて行く。次々にひたひたとやって来ては通り過ぎて行った。おそらく何十人もいた。そしてどのくらい経ったのか分からないが、今度は玄関の方から戻って来たのだ。
 全てが終わるまで、動くことも眠ることもできなかった。

 このアパートの大家は40代くらいの穏やかな雰囲気の男性で、端の部屋に住んでいた。田舎から出て来たばかりで知り合いもいなかった彼女は、大家に昨夜の出来事を訴えた。彼は話を聞いて「雨の夜は繋がるからね」と呟き、不思議な文様のお札をくれた。指示された通り部屋の中央に清酒を注いだコップを置き、窓と玄関を塩で清めてから、天井にお札を貼った。冷んやりしていた空気が和らぐ感覚があった。
 以来何も起こらないそうだ。

2019-06-27 18:40

23.交差点

 S区の住宅街から幹線道路に出るありふれた交差点。雨の日の深夜にひとりで通ってはいけない。3人の幽霊を見る事になる。角のビルの屋上から飛び降りた男。下を歩いていて巻き添えになった女。そして二人の幽霊に驚いて飛び出し、車に轢かれた少年。彼らは次の犠牲者を待っているのだ。

2018-12-31 20:19