42.無限鏡

 合わせ鏡の都市伝説は多い。特定の日時に無限に映る鏡の迷路から悪魔が現れるとか、何枚目かの鏡に自分の死に顔が映っているとかだ。しかしこの現象の、真の怖さを知る人間は少ない。
 無限鏡を出現させる度に、あなたの居る世界は、少しずつずれて行く。
 昨日買ったはずの物が消えていたり、逆に買わなかったはずの物があったりする。友達が約束を覚えていなかったり、服の色が変わっていたり、何かちょっとした事が変化してしまう。これを繰り返していると、世界はどんどん奇妙で恐ろしい場所になり、元に戻る方法はない。

2020-6-19

33.影取り

 Jさんがまだ中学生だった頃、夏休みは毎日部活の練習に通っていた。いつも通る道の曲がり角には、かなり大きな木がせり出していた。
 ある日その角を曲がった途端、飛び出してきた男とぶつかりそうになった。びっくりして立ちすくむと、男は全速力で走って行ってしまい、木陰にいた二人の子供に笑われた。気を取り直して歩き出したら、後ろから声をかけられた。「影取りだよ」「あなたの番だよ」何を言ってるのだろうと思った。

 ところが Jさんは、練習中のグラウンドで気が付いた。自分だけ影が無いのだ。オロオロしていると、チームメイトが集まって来て、先輩達も相談に乗ってくれた。とりあえずあの木まで行ってみることになった。しかし周囲を探しても、もうあの子達は居ないし、どうすればいいか分からない。夕方になり、その日は解散するしかなかった。家に帰っても母親に言いそびれたまま、翌日になれば影が戻っているのではないかと、期待していた。

 翌朝やっぱり影は無く、家を出て木の所に向かった。木陰から時々通る人を見ていて、昨日の男を思い出した。するといつのまに来たのか、子供達の声が背後から「あなたの番だよ」「取るんだよ」と言う。「どういう意味?」と聞こうとして、振り返って固まった。昨日はよく見ていなかった二人の、顔だけが老人だったのだ。
 思わず後ずさりした時、ちょうど通りかかった人がいた。「今だよ」「影取りだよ」 Jさんはハッとして、木陰から飛び出して走って逃げた。影は戻っていた。

 あの時の大樹はしばらく後に、区画整理で切り倒された。Jさんは大人になるにつれ、あれは本当の出来事だったんだろうかと疑うようになり、やがて忘れかけていた。だが去年の夏、電車の窓から偶然その光景を見て、思い出した。
 線路沿いの通りを行き交う人達の中に、ひとりだけ影の無い人が、歩いていたのだった。

2019-08-16 16:00

28.雨男

  ある小学校の児童の間で噂が広がった時期がある。雨の日になると校門前に現れる男の、顔を見たら死ぬのだという。
  その男は黒い大きな傘を目深にさしていて、首から上は隠れている。雨が降るといつの間にか現れ、長い時間ただ黙って立っていた。校門を出る時はみんな、男の方を見ないように、走って通り過ぎていた。
  ところがある日児童の一人が、ちょうど男の目の前で転んだ。その子は立ち上がる時、ちらっと顔を見てしまった。「うわわぁ!」と叫んで走り出し、先の交差点で車にはねられた。以前にも事故の起こった場所だった。

  救急車が到着するまで側にいた友達は、その子が話すのを聞いていた。「泣いてたんだよ。ボロボロ泣いてた」「死ぬぞって言ってた」 救急車に乗るまでは会話もできたのに、病院で容体が急変した。この事件以降、雨男は見かけなくなった。

 ずっと後になって、あれは最初の事故で子供を亡くし、自殺したお父さんだったのではないかと言われるようになった。
  今はこの小学校も統廃合で無くなっている。

2019-05-11

23.交差点

 S区の住宅街から幹線道路に出るありふれた交差点。雨の日の深夜にひとりで通ってはいけない。3人の幽霊を見る事になる。角のビルの屋上から飛び降りた男。下を歩いていて巻き添えになった女。そして二人の幽霊に驚いて飛び出し、車に轢かれた少年。彼らは次の犠牲者を待っているのだ。

2018-12-31 20:19 

21.駅

 C線のある駅には「指差す男」の都市伝説がある。
 線路を挟んだ向こうのホームに立っているサラリーマン風の男が、こちら側の線路を指差す。何も無いようだが、「見てみろ!」というようにしきりに指差すので、身を乗り出して覗き込むと、電車が入って来る。この駅では実際電車との接触事故が多いのだ。

2018-12-31 20:19