48.光

 Eさんが小学生の頃、仲間だけの秘密の遊び場があった。
 そこは町外れの森の入り口にある”神社”と呼ばれる場所で、本当は神道の神社とは別の、とても古い宗教施設だったらしい。参道には鳥居の代りに二本の丸太が立っていて、手水社も賽銭箱も無く、いつも閉じられている本殿があるだけだった。年に何回かは人が来て儀式を執り行っているらしかったが、普段は誰も寄り付こうとしない。それには訳があった。
 神社の奥の森は昔から、何人も神隠しに遭ったとか何か恐ろしい生き物を見たとか、不吉な話が絶えないので、行ってはいけない地とされていたのだ。
 当時はそういう噂も含めて、危ないところにいると思うとワクワクして、大した悪さをする訳でも無く、ただ大人に内緒で集まるのが面白いだけだった。

 別の街に進学したEさんが、何年かぶりに実家に戻った時、昔の仲間が集まって、久しぶりに神社に行ってみることになった。もうすぐ取り壊されてしまうので、すでに御神体も移されたと聞いた。
 境内を見て歩いていると、誰かが森に入ってみようかと言い出した。裏に回ると奥に通じる小道があって、子供時代は怖くて先に行けなかったのだ。
 小道をしばらく進むと崖にたどり着き、小さな社があってその真後ろは洞窟だった。入り口には太い格子がはめられ、数メートル先は暗くて中は見えない。社までで道は終わっていた。

 洞窟のある崖は右側が低く崩れていて登れそうだったので、みんな先に行こうと登り始めた。崖の上に立つと、それは頂上の幅が50センチほどしかない壁みたいなものだった。反対側に降りて確かめると、石を積んで作った壁に土が積もって崖に見えていた。全員そんなはずはないと思った。代わるがわる洞窟に戻って奥行きを確かめたり、壁に登って幅を確かめたりしても、つじつまが合わない。洞窟は少なくとも3メートルはあって傾斜はしていない、なのに壁は一番太いところでも1メートルくらいしかなかった。結局どうなっているのか分からず、首を傾げながら帰って来た。

 その後神社の撤去工事が始まってしばらく経ち、周辺も整地されあの壁も取り壊しにかかった日、町で多くの人が不思議な現象を目撃した。神社のあたりの森から空に向かって、白いレーザー光線のような目もくらむほど明るい光が走ったのだそうだ。工事業者に問い合わせもあった。しかしこの時現場にいた作業員は、誰も光を見ていなかった。

2020-12-31

34.河童

 Wさんが若い頃大雨で浸水被害の出た年があった。その日村の男達は全員駆り出され、Wさんも先輩と組んで警戒に当たっていた。
 厚い雨雲のせいで昼なのに暗い道を、二人で川沿いの神社を目指して歩いていると、鳥居の前に緑のレインウェアの人が5人立っているのが見えた。皆小柄で痩せていた。隣村の連中が来ているのかと思ったが、50メートルほどの距離に近づいた時、不意に先輩が立ち止まり「ありゃ人間ではねぇな」と言ったのだ。
 視界も霞むほどの雨の中よく見ると、レインウェアを着ていると思ったのは、彼らが緑色だったからだ。頭の先からつま先まで全部が暗い緑だった。すぐに向こうもこちらに気付き、一人が「キェーーッ」と叫ぶと、次々に濁流の川に飛び込んで消えた。
 村には古くから河童の目撃談があり、鳥居の脇には河童を祀った祠もあった。この日の豪雨でその祠も流され、その後河童を見た人はいない。

2019-07-12