31.磯

 子供の頃、私の故郷では夏休みになると、毎日泳ぎに行くのが当たり前だった。砂浜は急に深くなるし波が荒くて危険で、岩場の自然に形作られたプールになっている所で、みんな泳いでいた。高波が打ち付ける外海には出ない決まりだし、誰かしら見守っている父兄もいた。それでも磯の水深はたいてい数メートルもあり、大人でも足はつかない。たまに溺れる子供もいたのだ。
 ある時そういう場所のひとつで女の子が溺れ、気付いた知人が助けた一件があった。まん丸に膨れたお腹を上にして浮いているのを見て、最初は人形かと思ったそうだ。幸い女の子は一命を取り留めた。しかしそれ以来海を怖がるようになり、家から出られなくなった。

 この子は小さくても泳ぎは達者で、この日は買ってもらったばかりのシュノーケルをつけて、海中の様子を覗いていた。
 「海底の岩から大勢の子供が生えていて、海藻のようにゆらゆら揺れながら、笑っていた」と言うのだった。

2019-08-13 16:00

30.人魚

 その海辺の村には古くからの掟があり、春の大潮の夜に海に行ってはならない。人家から離れた小さな入り江に、人魚達がやって来る。人魚は美しく、どんな男も一目で魅入られてしまう。しかし彼女達は繁殖の相手を、行為が終わると喰うのだ。夜明けの静かな海面が、被害者の鮮血で赤く染まると言う。

2018-11-16

11.満潮

 天井の岩の割れ目から海面に射し込む光が美しく、以前は遊覧船が入っていた洞窟で、ある日事故が起きた。自分の釣り船で向かった3人連れが、全員死亡して見つかった。干潮時に入ったが、ぐずぐずしている間に潮が満ちて出られなくなり、窒息したのだという。

 この洞窟は確かに満潮になると船は通れない。波が激しいので泳いで出るのも難しい。しかし完全に水没はしないし上部に穴もあるので、窒息するとは考えにくかった。

 さらに船上で発見された死体は3体ではなく4体。ひとつは身元不明の溺死体で、死後一週間くらいは経っていた。

 3人の死体に首を絞められた痕があったと噂がたったのち、遊覧船のコースから外されたのだった。

2018-06-29 23:40