32.挨拶

 かなり昔の夏の午後。親戚宅で数人がくつろいでいた。
 開け放してあった戸口から、近所の子供が中を覗き込んだ。
 「〇〇ちゃん麦茶でも飲んでけよー」と声をかけたが、その子はペコッと会釈をして行ってしまった。そのままおしゃべりを続けていて、一人がふと「あの子はどこへ行くんだろう」と言い出した。子供が向かった道の先に家はなく、村の墓地があるだけなのだ。
 皆で首を傾げていると、近所の人が「さっき子供が死んだ」と知らせに来た。

2019-08-16 16:00

24.腕時計

 彼女が夫の遺品の時計を、さっさと売り払ってしまったのには訳がある。
 それはアンティーク好きな彼が、どこかで手に入れてきた手巻き式腕時計だった。状態は良く、今では手に入れるのが難しいものだと自慢していた。
 ところがそれを身につけて行った初日に、彼は交通事故にあった。幸い大した怪我もなく、病院で検査しても問題なかったが、その日は動悸がすると言って早く寝た。翌朝すっかり元気になっていたのに、帰ってくるとまた動悸がして気分が悪いという。しかし着替えて風呂に入る頃には治っていた。
 翌朝彼は時計を置いて出た。壊れていると言っていた。きちんとネジを巻いても、ある時刻になると止まってしまう。昨日も一昨日も同じ時間に止まった。
 その日の午後会社から連絡があり、夫が倒れたと聞いても、彼女には信じられなかった。まだ若く健康には自信があったのに、救急車が来る前に心臓が止まり、そのまま帰らぬ人となった。止まった時計が指していたその時刻だった。

2018-12-31 20:19 

20.同窓会

 写真が趣味のKさんは高校の同窓会の撮影を頼まれた。ずいぶん久しぶりの会だったのに、たくさんの旧友が集まり盛り上がった。かなりの数の写真を撮った。
 次の日参加者に、揃って記念撮影した写真を送ろうとして、失敗したと思った。Oさんだけ写っていなかった。トイレにでも行っていたのだろうかと、他の写真も見てみたが、Oさんのいたはずの席にはずっと誰もいない。幹事に連絡して、Oさんが確かに来ていたのを確認した。彼も会場で撮った自分の写真を確かめてくれたが、Oさんだけがどこにも写っていなかった。
 翌日、Oさんが同窓会から帰宅した後の深夜に、急死していたと聞いた。

2018-12-31 20:19