49.予言

 Dさんは若い頃父親と反目していた。
 高校を卒業する頃には口もきかなくなっており、県外に進学した後は、実家に寄り付かないまま都会で働いていた。
 父が倒れたと連絡があってもすぐには行かないで、もう本当に悪いようだと分かってから駆けつけた。父はすでに意識朦朧としていて、たまに目を開けても、時折意味不明な話しをするだけになっていた。
 当時Dさんは夢だった仕事に就けず、彼女もできず、先の見えない生活に疲れていた。しかし父はあんなに怒っていたDさんのことを「あいつは大丈夫だよ」と、母に言ったのだそうだ。「すごく良さそうな人と結婚して子供も3人出来るんだよ」と嬉しそうに喋っていたという。それから間もなくして亡くなった。

 20年後、母から農地を手放したいと連絡が来て、手続きの為に郷里を訪れた。見納めになるので、妻と3人の子供達も連れて、家から離れた場所にある畑を案内して歩いた。帰り道で娘の一人がバイバイと手を振るので聞くと、林の中からパパにそっくりなおじさんが、ニコニコしながらこちらを見ていたと言うのだった。

2020-12-31

45.ホテル・日本

 Aさんが出張で部下と泊まったビジネスホテル。
 夜遅くに戻ったツインルームで、それぞれのベッドに入って電気を消した。
 しばらくし目が覚めたAさんは、窓際の黒い影に気付いた。
 目を凝らしてみると、部屋に備え付けの寝間着を着た部下が床に座り、両脚を抱え頭を膝に埋めて、震えていたのだ。
 泣いているようにも見えたので、声をかけるのをためらった。
 知らない振りをした方が良いのだろうかと思い、寝返りを打って隣のベッドの方を向くと、そこに部下が居た。彼はそっと指で窓際を指し示しながら、必死に目で訴えていた。Aさんはうなずき、急いで明かりを点けて窓際を振り返った。
 部下と間違えた男は消えていた。

2020-12-31

44.寝息

 Iさんはその夜何故か目が覚めた。カーテン越しの窓がまだ暗かったので、もう少し眠ろうとして気が付いた。誰かの寝息が聞こえる。ググッ⋯グゥと少し苦しそうな低い音が、自分のすぐ側でしていた。壁際に敷いた布団と窓との間にはコタツを置いてあり、その中から聞こえるようだった。
 慌てて飛び起き電気を点け、コタツ布団をめくっても誰も居ない。一人暮らしだし、隣室の音が聞こえる部屋でもないので、不思議だった。

 だいぶ経ってすっかり忘れていた夏の夜半、またあの寝息に気付いた。布団を外してテーブルとして使っているコタツの方を向くと、窓からのかすかな明かりに浮かび上がって、黒くて丸いものがあった。急いで電気を点けて覗くと、無くなっていた。
 3回目に寝息を聞いた夜、正体を確かめたくて、暗がりの中目を凝らしてコタツの下を見ていた。小さな猫くらいの大きさの黒い毛並みの何かが、ただずっと寝息を立てていた。害は無いようだと思った。添い寝に来る同居人がいるような感覚で、2年も暮らしていたのだという。
 翌日は早朝から引越しで、遅くまで荷造りをしていた晩、壁際にダンボールを並べたので、コタツを挟んでいつもと反対の窓際で寝た。そしてまだ暗い朝方ふと目覚め、ついに見てしまった。

 それは男の生首だった。
 苦悶の表情を浮かべ、小さなうめき声を搾り出しながら、Iさんの方を睨んでいたのだ。

2020-07-10

32.挨拶

 かなり昔の夏の午後。親戚宅で数人がくつろいでいた。
 開け放してあった戸口から、近所の子供が中を覗き込んだ。
 「〇〇ちゃん麦茶でも飲んでけよー」と声をかけたが、その子はペコッと会釈をして行ってしまった。そのままおしゃべりを続けていて、一人がふと「あの子はどこへ行くんだろう」と言い出した。子供が向かった道の先に家はなく、村の墓地があるだけなのだ。
 皆で首を傾げていると、近所の人が「さっき子供が死んだ」と知らせに来た。

2019-08-16 16:00

29.墓参

 祖父の新盆にRさんが本家に到着したのは夕方だった。親族はすでに墓参を済ませ、慌ただしく宴席の用意をしていた。Rさんは手伝わなくていいと言われ、手持ち無沙汰だったので、線香を手向けに墓まで行ってみることにした。
 田舎の墓地はとても広い。いつもは大勢で行くので、誰かと一緒に歩いていれば良かった。ひとりだと大体の見当はついていても、久しぶりのせいかたどり着けない。
 すでに日が傾き始めた薄暮の中、たくさんの線香の煙で霞がかかり、余計場所が分かりにくくなっていた。まだあちらこちらに人が歩いていたし、そこら中に灯明もあったので、怖くはないが迷ってしまった。

 どうしようかと思った時、後ろから「〇〇」と自分を呼ぶ声がして、振り向くと急に視界がクリアになった。さっきまであんなにたなびいていた煙が消え、灯明も無くなっていた。歩いていた人達も誰もいない。
 声が聞こえた方に祖父の墓があったのだった。

2019-08-13 16:00