41.足跡

 前日のような猛吹雪ではないものの、断続的に雪が降っていた深夜、Nさんは布団の中で足音を聞いた。ギュッギュッと雪を踏みしめながら、遠ざかったり近づいたりする。こんな底冷えのする夜更けに、どうしたんだろうと考えていた。近隣の家とは離れているし、土地の人間はこんな日には外に出ない。やがて寝落ちしていたらしく、ズン! という振動で目が覚めた。屋根から雪が落ちたらしい。続いて天井から響いてきた「ドッドッドッドッ」という音に覚えがあった。子供の頃にも確かに聞いた音だった。

 やっと晴れた翌朝、Nさんは新雪の上に、幾重にも重なる足跡を見た。それは靴跡ではなく、ただ丸い指も何もない跡だった。家のまわりを何周もぐるぐる回っており、見上げると急傾斜の屋根にも付いていた。
 昔 祖母は、雪の降り続く夜は外に出るなと言っていた。あの音がする天井を指して、雪鬼に食われてしまうぞと。あれは遭難しないための戒めと受け取っていたが、今では本当にいたと思う。

 2019-03-26

39.その家の裏

 Fさんの悩みは隣に住む女だった。
 何年も探してやっと見つけた綺麗で設備も良い理想の中古住宅だったのに、入居してすぐに嫌がらせが始まった。元の持ち主は、ここは息子のために建てた家だと言っていた。仕事の関係で地元には戻れなくなったので、盆暮れの帰省で泊まる以外は、ほとんど使っていなかったそうだ。隣も自分の土地で、親族が住んでいると聞いていた。

 隣の女は顔を合わせる度「出て行け!」「ここに住むな! 」などと叫ぶ。ゴミを投げ入れるとか車を傷つけるとか、嫌がらせはエスカレートして行った。向かいに住んでいる元の持ち主に話して注意してもらっても、しばらく経つとまた始まった。近所の人に聞くと、あの女は昔からおかしい奴で色々問題を起こしたという。母親が出て行ってからは余計ひどくなり、誰とも付き合わないのだそうだ。我慢できずに警察に相談し、監視カメラをつけて証拠を集めるようアドバイスされた。仕方なく高価なカメラを設置すると、今度は裏に回って植木鉢を割られた。しかし画面では見えていなくても、音は入っていることに気付いた。

 ある日音声をPCに取り込んで処理し、かすかにしか聞こえない声のボリュームを上げてみた。
 するとその声は確かに「ここに埋めたのに⋯」と言っていた。

2019-03-16