38.皆殺しの家

 私が若い頃住んでいた町に、ある洋館があった。庭には樹木が鬱蒼と生い茂り、階段部分と思われる丸い塔が印象的な、小さな屋敷だった。友人と前を通った時に、その話を聞かされた。本当にそんな事があったのかどうかは、分からないと言っていた。
 この屋敷は近所で「皆殺しの家」と呼ばれており、そのきっかけはずっと昔の一家心中事件だった。ひとり十代の少年だけが生き残り、他の家族全員を殺したのではないかと噂が立った。その後長い間空き家だったのだが、敷地の一部にアパートが建ち、大家をしている男が生き残りの息子かもしれないという。
 「全部ただの噂だけどね」と友人は言って、「でも⋯」と続けた。
 「うちの犬達が散歩の時、あの家に近づくのをすごく嫌がるのよ」

2020-02-27

22.隣の家族

 単身赴任したHさん。会社が用意していたのは家族向けの家だったので、一戸建てが並ぶ閑静な住宅街に一人で住んでいた。隣に引越しの挨拶に行った時は留守で、すぐに仕事が忙しくなり毎晩帰りも遅いので、そのままになってしまった。
 毎朝出勤の身支度を整えている頃に、隣の子供達が元気に出て行く声がする。たまに外食しないで早く帰ると、賑やかに会話しながら食事をしている様子がうかがえた。こちら側の窓に灯りは見えないが、テレビの音まで聞こえていたし、一度も会ったことはなくても、仲の良さそうな家族だと思っていた。
 一年後、本社に戻るので荷造りの手伝いに来てくれた同僚から、信じられない話を聞いた。隣の家で数年前に父親が家族を皆殺しにする事件があり、以来ずっと空き家なのだという。

2018-12-31 20:19