39.その家の裏

 Fさんの悩みは隣に住む女だった。
 何年も探してやっと見つけた綺麗で設備も良い理想の中古住宅だったのに、入居してすぐに嫌がらせが始まった。元の持ち主は、ここは息子のために建てた家だと言っていた。仕事の関係で地元には戻れなくなったので、盆暮れの帰省で泊まる以外は、ほとんど使っていなかったそうだ。隣も自分の土地で、親族が住んでいると聞いていた。

 隣の女は顔を合わせる度「出て行け!」「ここに住むな! 」などと叫ぶ。ゴミを投げ入れるとか車を傷つけるとか、嫌がらせはエスカレートして行った。向かいに住んでいる元の持ち主に話して注意してもらっても、しばらく経つとまた始まった。近所の人に聞くと、あの女は昔からおかしい奴で色々問題を起こしたという。母親が出て行ってからは余計ひどくなり、誰とも付き合わないのだそうだ。我慢できずに警察に相談し、監視カメラをつけて証拠を集めるようアドバイスされた。仕方なく高価なカメラを設置すると、今度は裏に回って植木鉢を割られた。しかし画面では見えていなくても、音は入っていることに気付いた。

 ある日音声をPCに取り込んで処理し、かすかにしか聞こえない声のボリュームを上げてみた。
 するとその声は確かに「ここに埋めたのに⋯」と言っていた。

2019-03-16

22.隣の家族

 単身赴任したHさん。会社が用意していたのは家族向けの家だったので、一戸建てが並ぶ閑静な住宅街に一人で住んでいた。隣に引越しの挨拶に行った時は留守で、すぐに仕事が忙しくなり毎晩帰りも遅いので、そのままになってしまった。
 毎朝出勤の身支度を整えている頃に、隣の子供達が元気に出て行く声がする。たまに外食しないで早く帰ると、賑やかに会話しながら食事をしている様子がうかがえた。こちら側の窓に灯りは見えないが、テレビの音まで聞こえていたし、一度も会ったことはなくても、仲の良さそうな家族だと思っていた。
 一年後、本社に戻るので荷造りの手伝いに来てくれた同僚から、信じられない話を聞いた。隣の家で数年前に父親が家族を皆殺しにする事件があり、以来ずっと空き家なのだという。

2018-12-31 20:19 

15.話し声

 Cさんの通勤途中の交差点の手前に、古くて何に使われていたのか不明な建物がある。スマホで調べ物をしようとして、たまたまその前で立ち止まった時に、声がするのに気付いた。すぐ後ろで二人の男が喋っていると思っていて、いつまでも追い越して行かないので振り向くと、辺りには誰も見えなかった。しばらくたったある日、先の信号が赤になってしまったので歩みを緩めたら、また同じ所で一瞬声が聞こえた。少し戻って耳をすますと、やはり誰も居ないのに、二人の男の会話が聞こえる。「次はあいつかな」とか「青いブラウスが先だろう」などと小さな声で言っていた。信号待ちをしている人の中に、青いブラウスの年配の女性がいて、いつも通勤で見かける顔だった。気になったが、考えても何も分からない。しかし次の日から、その女性を見かけなくなってしまった。

 それからCさんは、その場所に来ると立ち止まって、聞き耳をたてるようになった。全く聞こえない日もあり、「リュックを背負ったやつ」とか「ジョギングの男がいい」とか、話しているのが分かる日もあった。そしてその翌日、近所でジョギングをしていた男性が、亡くなったと知り、あれは聞いてはいけない声なのだと思った。

 Cさんは通勤のルートを変えた。もしも自分のことを囁かれたらと想像すると、怖くてたまらなくなったのだ。

2018-08-11 02:00 

1.廃墟

    その夜 Zさん達のグループは、軽い肝試しのつもりで、山の中腹のホテルだった建物に出かけた。廃業して数年が経っていたものの、当時は怪奇現象の噂があったわけではない。

 玄関ホールから中に入ると、窓際以外は暗くて何も見えなかった。各自懐中電灯を持ち、思い思いに部屋を覗きながら、廊下を進んでいた。Zさんは1階の奥の部屋で、影が動いたのを見た気がしたが、壁や床を丁寧に照らしても何も見つからない。おかしいと思っていると、不意に懐中電灯が切れて真っ暗になった。全員先に行ってしまったようだ。

 「おーい」と呼んでも返事がない。「どこやー?」と叫びながら手探りで進むうちに、方向も分からなくなった。心細くなった時、冷たいものにいきなり手首を掴まれ、飛び上がるほど驚いた。
 「こっちだよ」と落ち着いた小さな声が聞こえ、再び冷たい手が触れた。その手はZさんを引いて進み、「誰?」と聞いても「こっち」と答えるだけだった。Zさんにはふと疑問が湧いた。何故こいつは暗闇で歩けるのだろう。そう思った途端ゾッとして、思わず「お前は誰なんや!」と怒鳴った。相手は強く手を引っぱり、「こっちにおいでよ」と言ったのだ。

 仲間達が悲鳴を聞いて戻って来ると、Zさんは腰を抜かしてへたり込んでいた。両脇を抱えられてなんとか車まで戻った。最初は笑っていた連中も、Zさんのただならぬ様子に、ちゃんと話を聞いてくれた。「危なかったな」と言われて初めて、自分のすぐ横に、地下に降りる階段があったと知った。

 このホテルはその後心霊スポットとして有名になった。今はホテルへの進入路が金網で封鎖されており、建物も朽ち果てているらしい。

2019-03-25