
Dさんは若い頃父親と反目していた。
高校を卒業する頃には口もきかなくなっており、県外に進学した後は、実家に寄り付かないまま都会で働いていた。
父が倒れたと連絡があってもすぐには行かないで、もう本当に悪いようだと分かってから駆けつけた。父はすでに意識朦朧としていて、たまに目を開けても、時折意味不明な話しをするだけになっていた。
当時Dさんは夢だった仕事に就けず、彼女もできず、先の見えない生活に疲れていた。しかし父はあんなに怒っていたDさんのことを「あいつは大丈夫だよ」と、母に言ったのだそうだ。「すごく良さそうな人と結婚して子供も3人出来るんだよ」と嬉しそうに喋っていたという。それから間もなくして亡くなった。

20年後、母から農地を手放したいと連絡が来て、手続きの為に郷里を訪れた。見納めになるので、妻と3人の子供達も連れて、家から離れた場所にある畑を案内して歩いた。帰り道で娘の一人がバイバイと手を振るので聞くと、林の中からパパにそっくりなおじさんが、ニコニコしながらこちらを見ていたと言うのだった。
2020-12-31