47.ホテル・イタリア

 Cさんがツアー旅行で泊まった古いホテル。
 夜中に騒がしい音がするので起きると、部屋の中が古戦場になっていた。
 自分は確かにベッドにいるし、うっすらと部屋の壁や窓の輪郭も見えるのに、大勢の人間が入り乱れて戦う荒野の真ん中になっていたのだ。
 雄叫びや悲鳴や剣をぶつける音が響き、血飛沫が飛び交って、はらわたが飛び出した死体も横たわっていた。
 Cさんは自分も切りつけられるのではないかと、恐怖で固まった。だが誰も自分に気づいていないようで、安心しかけたら一人の男と目が合った。その男だけ現代風の服を着て、鋭い視線でCさんを見つめていた。
 慌ててベッドから出て逃げようとすると、その男も逃げ出した。部屋のベランダから隣のベランダに飛び移ったようだった。
 古戦場の風景は消えていた。
 翌朝ツアーガイドに報告すると、このホテルでは以前にも幽霊話を聞いたし、ベランダ伝いに強盗が侵入した事件もあったらしい。

2020-12-31

46.ホテル・アメリカ

 Bさん夫婦が個人旅行で泊まったリゾートホテル。
 部屋も広く大理石のバスルームも豪華で、部屋に最初に案内された時は妻も気に入っていた。しかし眠ろうとしてベッドに入ってから、何か音がすると言い出した。
 ズルズルと床を這うような音が、バスルームから聞こえる。
 確かめようと起きてバスルームに行くと、音も止まる。戻ってくるとまた聞こえる。
 気味が悪かったものの、バスタブもトイレも洗面台も、引き出しの中やドアの裏まで丹念に調べても異常がないので、ベッドに戻ろうとした。
 突然Aさんは、見えない誰かに足首を掴まれて、激しく転倒した。
 血だらけの顔で病院に運ばれ、肩や膝からも出血していた。医師が確認の為に脚のチェックをすると、足首には確かに人の指の跡が残っていた。

2020-12-31

45.ホテル・日本

 Aさんが出張で部下と泊まったビジネスホテル。
 夜遅くに戻ったツインルームで、それぞれのベッドに入って電気を消した。
 しばらくし目が覚めたAさんは、窓際の黒い影に気付いた。
 目を凝らしてみると、部屋に備え付けの寝間着を着た部下が床に座り、両脚を抱え頭を膝に埋めて、震えていたのだ。
 泣いているようにも見えたので、声をかけるのをためらった。
 知らない振りをした方が良いのだろうかと思い、寝返りを打って隣のベッドの方を向くと、そこに部下が居た。彼はそっと指で窓際を指し示しながら、必死に目で訴えていた。Aさんはうなずき、急いで明かりを点けて窓際を振り返った。
 部下と間違えた男は消えていた。

2020-12-31

1.廃墟

    その夜 Zさん達のグループは、軽い肝試しのつもりで、山の中腹のホテルだった建物に出かけた。廃業して数年が経っていたものの、当時は怪奇現象の噂があったわけではない。

 玄関ホールから中に入ると、窓際以外は暗くて何も見えなかった。各自懐中電灯を持ち、思い思いに部屋を覗きながら、廊下を進んでいた。Zさんは1階の奥の部屋で、影が動いたのを見た気がしたが、壁や床を丁寧に照らしても何も見つからない。おかしいと思っていると、不意に懐中電灯が切れて真っ暗になった。全員先に行ってしまったようだ。

 「おーい」と呼んでも返事がない。「どこやー?」と叫びながら手探りで進むうちに、方向も分からなくなった。心細くなった時、冷たいものにいきなり手首を掴まれ、飛び上がるほど驚いた。
 「こっちだよ」と落ち着いた小さな声が聞こえ、再び冷たい手が触れた。その手はZさんを引いて進み、「誰?」と聞いても「こっち」と答えるだけだった。Zさんにはふと疑問が湧いた。何故こいつは暗闇で歩けるのだろう。そう思った途端ゾッとして、思わず「お前は誰なんや!」と怒鳴った。相手は強く手を引っぱり、「こっちにおいでよ」と言ったのだ。

 仲間達が悲鳴を聞いて戻って来ると、Zさんは腰を抜かしてへたり込んでいた。両脇を抱えられてなんとか車まで戻った。最初は笑っていた連中も、Zさんのただならぬ様子に、ちゃんと話を聞いてくれた。「危なかったな」と言われて初めて、自分のすぐ横に、地下に降りる階段があったと知った。

 このホテルはその後心霊スポットとして有名になった。今はホテルへの進入路が金網で封鎖されており、建物も朽ち果てているらしい。

2019-03-25