21.駅

 C線のある駅には「指差す男」の都市伝説がある。
 線路を挟んだ向こうのホームに立っているサラリーマン風の男が、こちら側の線路を指差す。何も無いようだが、「見てみろ!」というようにしきりに指差すので、身を乗り出して覗き込むと、電車が入って来る。この駅では実際電車との接触事故が多いのだ。

2018-12-31 20:19 

22.隣の家族

 単身赴任したHさん。会社が用意していたのは家族向けの家だったので、一戸建てが並ぶ閑静な住宅街に一人で住んでいた。隣に引越しの挨拶に行った時は留守で、すぐに仕事が忙しくなり毎晩帰りも遅いので、そのままになってしまった。
 毎朝出勤の身支度を整えている頃に、隣の子供達が元気に出て行く声がする。たまに外食しないで早く帰ると、賑やかに会話しながら食事をしている様子がうかがえた。こちら側の窓に灯りは見えないが、テレビの音まで聞こえていたし、一度も会ったことはなくても、仲の良さそうな家族だと思っていた。
 一年後、本社に戻るので荷造りの手伝いに来てくれた同僚から、信じられない話を聞いた。隣の家で数年前に父親が家族を皆殺しにする事件があり、以来ずっと空き家なのだという。

2018-12-31 20:19 

23.交差点

 S区の住宅街から幹線道路に出るありふれた交差点。雨の日の深夜にひとりで通ってはいけない。3人の幽霊を見る事になる。角のビルの屋上から飛び降りた男。下を歩いていて巻き添えになった女。そして二人の幽霊に驚いて飛び出し、車に轢かれた少年。彼らは次の犠牲者を待っているのだ。

2018-12-31 20:19 

24.腕時計

 彼女が夫の遺品の時計を、さっさと売り払ってしまったのには訳がある。
 それはアンティーク好きな彼が、どこかで手に入れてきた手巻き式腕時計だった。状態は良く、今では手に入れるのが難しいものだと自慢していた。
 ところがそれを身につけて行った初日に、彼は交通事故にあった。幸い大した怪我もなく、病院で検査しても問題なかったが、その日は動悸がすると言って早く寝た。翌朝すっかり元気になっていたのに、帰ってくるとまた動悸がして気分が悪いという。しかし着替えて風呂に入る頃には治っていた。
 翌朝彼は時計を置いて出た。壊れていると言っていた。きちんとネジを巻いても、ある時刻になると止まってしまう。昨日も一昨日も同じ時間に止まった。
 その日の午後会社から連絡があり、夫が倒れたと聞いても、彼女には信じられなかった。まだ若く健康には自信があったのに、救急車が来る前に心臓が止まり、そのまま帰らぬ人となった。止まった時計が指していたその時刻だった。

2018-12-31 20:19