20.同窓会

 写真が趣味のKさんは高校の同窓会の撮影を頼まれた。ずいぶん久しぶりの会だったのに、たくさんの旧友が集まり盛り上がった。かなりの数の写真を撮った。
 次の日参加者に、揃って記念撮影した写真を送ろうとして、失敗したと思った。Oさんだけ写っていなかった。トイレにでも行っていたのだろうかと、他の写真も見てみたが、Oさんのいたはずの席にはずっと誰もいない。幹事に連絡して、Oさんが確かに来ていたのを確認した。彼も会場で撮った自分の写真を確かめてくれたが、Oさんだけがどこにも写っていなかった。
 翌日、Oさんが同窓会から帰宅した後の深夜に、急死していたと聞いた。

2018-12-31 20:19 

19.トンネル

 都内のタクシー運転手さんには有名な、幽霊トンネルがある。走行中に突然天井から人が降ってくるので、できれば通りたくなかったそうだ。慌てて急ブレーキを踏んで後続車に追突される事故も起きたし、探しても落ちたはずの人間は見当たらない。
 そのトンネルの上の丘が、整備されて公園になった。造成中に古い人骨がゴロゴロ出て来た。骨を集めて別の場所で供養すると、人が降ってくることはなくなった。

2018-12-31 20:19 

18.蜘蛛

 Tさんが二十代の頃、ある男性と親しくなった。彼の部屋に誘われて行くと、玄関ドアに蜘蛛が止まっていた。小さな蜘蛛だったので気にもとめず、2度目に行った時もいたが、特に何も考えなかった。3度目4度目に訪ねて行ってドアを見た時、蜘蛛がだんだん大きくなっている気がした。それでもまだ偶然と思おうとしたが、5度目にさらに大きくなった蜘蛛を見て、そのまま引き返した。急に怖くなり、これ以上の大きさになるのを見るのは、耐えられなかったからだ。
 すぐに彼とは別れ、あの蜘蛛が何だったかは分からない。

2018-12-31 20:19

17.夢

 Dさんはしばらく前から、空を飛ぶ夢を度々見るようになった。飛ぶ夢は学生時代にもよく見ていたが、最近のものが決定的に違うのは、とにかくリアルなことだ。夜中に、今住んでいる6階の部屋のベッドから起き上がり、玄関を出て外廊下を進む。端まで来ると手すりに上り、そこから飛ぶのだった。空を飛んで行く時の風の気持ち良さまで、実際の出来事のように感じた。

 ある晩遅くにDさんがマンションに戻ると、隣の部屋の女性がフラフラと歩いている。様子が変なので声をかけると、彼女はハッとして我に返った。自分が外廊下にいるのが信じられない様子で、ベッドで夢を見ていたはずだという。本当に歩いているとは思わなかったと言っていた。
 Dさんと隣の女性は相次いで引っ越しを決めた。

 このマンションは、飲食店やオフィスが並ぶ東西に400mほどの、都会のありふれた裏通りに建っている。しかし以前、通りの西端の高層マンションで飛び降り自殺があり、1年後にも転落死があった。2年後には東の端の方のビルで落下事故が起こり、次に西側の別のマンションで飛び降り自殺があった。さらに2軒先のビルでも飛び降り自殺があり、その隣がDさん達が引き払ったマンションだった。
  それら全てが同じ通りの南側の建物だけで起こったのだ。 

2018-08-13 21:00 

16.その男

 Eさんは一度倒れて死にかけた。その時のことは覚えていない。怖かったのは退院してからだった。
 マンションに戻ってドアを開け、中に入って閉じようとしたら、何かに引っかかった。確かに手応えはあったのに、何も見当たらないので、そのまま閉めた。部屋は妙に息苦しい。シャワーを浴びると、半透明の扉の向こうを、影がよぎったような気がした。夜も寝苦しくてたまらない。全ては自分の体調が戻っていないせいだと思った。

 数日経って、会社の人間と会う約束をした。先にカフェに着いて、窓際の席に座ると、店員には待ち合わせだと告げていないのに、水を二つ置いて行った。さらに同僚が、到着するなり「さっきの人は?」と聞いてきた。最初から自分一人なのに、外から見た時、横にもう一人居たと言って譲らない。お互い釈然としないままだった。

 同じようなことがそれからも続いた。ビルのエレベーターで乗り合わせた人が、自分が降りた後も開ボタンを押し続けている。タクシーを降りようとすると、運転手が振り返って「あれっ! もう一人の方は?」と驚いている。気味が悪かった。
 部屋の中では、物の置き場所がずれているような気がする。歩くと足音が少し遅れて響く。何かがおかしいとしか思えなかった。
 そして会社に復帰した日の午後、トイレに行って鏡の前に立った瞬間に、ついにその男を見たのだった。

 Eさんはまた倒れ、気がついた時には病院にいた。

 今でもあの時見たもの、斜め後ろに寄り添うように、自分に瓜二つの男が立っていたのを、はっきりと思い出せるという。

2018-08-12 16:00