53.11月24日

 彼ら二人は仕事で、車の運転を交代しながら、山間部を廻っていた。
 いつも営業所に戻る途中で「この山を越えられればすぐなのにな」「1時間は短縮出来ますよね」などと話すポイントがあった。山裾を大回りする以外に、山越えのルートがあっても良さそうなのに、地図を見ると炭鉱跡があるにも関わらず道がない。しかしその日、同僚から昔の鉱石運搬用道路が載っている古い地図をもらい、探してみようという事になった。

 行ったり来たりして「この辺のはず⋯」と思うあたりをよく見ると、森の入り口に切れかかったしめ縄の様なものが渡された二本の大木がある。神社の参道かと思い通り過ぎていたが、車が通れる幅はあるので、行ける所まで行こうとした。
 道は舗装されておらず、すぐに登りになり、しだいにもやが出てきた。危ないので「戻ろうか」と言って、切り返せるスペースを探してそろそろと車を走らせていると、少し広そうな場所に出た。周囲を確かめる為に、二人とも車を降りた。すぐに声がするのに気が付いた。
 声からすると大勢がこちらに向かって来るらしい。

「人が来たのか?」「生きているのか?」「どこから来たんだ」「どうやって来たんだ」「喰えるのか?」「喰っちまおうよ」「喰いたいよ⋯」
 二人は慌てて車に乗り込み、元の道に戻ろうと方向を変えた。ヘッドライトの先に、大勢の黒い人影がうごめいていた。どれもただ真っ黒な煙の塊の様だった。
 そのうちのひときわ大きな者が、二人に向かって告げた。「今日は日が悪い。11月24日に改めて来い」影の群れの中を、少しずつ車を進めると、さらにこう叫んだ。「11月24日だ! 祭りの贄(にえ)にするでな!」
 もやの立ち込める細い道を、必死で運転して山を降り逃げた。

 営業所に戻ってこの話をすると、同僚達にからかわれた。誰も信じてくれなかったし、「また来いと言われて誰が行くか」と笑いながらも、11月24日になると気になって落ち着かなかった。何事も起こらずに過ぎて、その年も終わり近くになり、二人は仕事納めの挨拶まわりに出掛けた。
 帰って来なかった。

 担当していたルートでは車も見つからず、行方不明のまま新年になった。そして正月も過ぎた頃、あの山の麓の橋から転落している車が発見された。外に投げ出されていた二人の遺体は、動物や鳥に食い荒らされて無残な有様だったそうだ。
 同僚の誰かが、ふと気付いて口を開いた。
「11月24日って⋯もしかして旧暦の日付だったんじゃないですか」

2021-12-31

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