38.皆殺しの家

 私が若い頃住んでいた町に、ある洋館があった。庭には樹木が鬱蒼と生い茂り、階段部分と思われる丸い塔が印象的な、小さな屋敷だった。友人と前を通った時に、その話を聞かされた。本当にそんな事があったのかどうかは、分からないと言っていた。
 この屋敷は近所で「皆殺しの家」と呼ばれており、そのきっかけはずっと昔の一家心中事件だった。ひとり十代の少年だけが生き残り、他の家族全員を殺したのではないかと噂が立った。その後長い間空き家だったのだが、敷地の一部にアパートが建ち、大家をしている男が生き残りの息子かもしれないという。
 「全部ただの噂だけどね」と友人は言って、「でも⋯」と続けた。
 「うちの犬達が散歩の時、あの家に近づくのをすごく嫌がるのよ」

2020-02-27

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