5.窓の中

 昔近所に知人が居た。安く借りられたと喜んでいた部屋は、細い道路を挟んで目の前に隣の建物が建っていた。採光が良くなかったけれど、帰りが遅いので気にしなかった。ある朝ジャケットのボタンが取れ、慌てて付けて出て行った彼女は、帰ってからカーテンの開けっ放しに気付いた。閉めようとして隣のビルを見ると、部屋の中に緑色のソファーに横たわる男が居て、顔だけこちらに向けていた。急いで閉めたのだが、ソファーに見覚えがある気がした。

 ある晩タバコを吸う友人が訪ねて来た後、換気の為開けていた窓を閉じようとして、またあの男を見た。同じ格好で彼女を凝視していた。ギョッとしたその時、不意に隣のビルに明かりが点き、そこがオフィスだったと分かった。何かを取りに来たらしい人が、すぐに明かりを消すと、隣の窓に自分の部屋が映り込んだ。自分の後ろにソファーがあり、男が寝ていた。彼女はすぐに部屋を逃げ出し、引っ越すまで決して一人では戻らなかった。

 あのソファーは部屋の内覧に来た時見たものだった。業者の人が「前の住人が突然出て行ってしまって、家具がそのままなんですけど、今週中には片付けますから」と言っていたのも思い出した。
 彼女はもうこの街には住みたくないそうだ。

2017-04-13 18:32 

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